歯科衛生士 1月
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加藤和子/料理研究家 食べることは、生きること。 食べることは人間にとって切っても切り離せない日常です。食べられなくなったら「人生、終わり」と考えなくてはなりません。どんなに嚥下不能の人でもやはり口からおいしい食事を取りたい、取らせてほしいと思い、ご家族や介護の方も口から食べさせてあげたいと思います。それは共通の、切実な願いです。 先日「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会」にお招きいただき、各分野の先生方の研究をうかがいました。一料理研究家として拝聴いたしましたが、ここ数年での大変な進歩にびっくりするやら、うれしいやら。嚥下食も十数年前に審査員として参加させていただいたときとは、比べようもないほどに進化を遂げていました。 当時は、嚥下食といえば何でも一緒に粉砕して、もっぱらゼリー状にしたり、とろみをつけたりするだけ。お味の方は二の次でしたから、賞を決めるにも随分と苦労いたしました。 しかし先日の企業ブースに出品されていた嚥下食は、肉や野菜、魚、果物、素材それぞれの味を生かしたペースト状の物が多く、味付けにも細心の工夫が凝らされていました。それもこれも、おいしく食べること、食べていただくことへの研究・開発努力、スタッフの絶え間ない探究心の成果です。 今後、日本は高齢化が急速に進みます。この分野への需要も期待も多くなることは言うまでもありません。食べることは、生きること。1人でも多くの人が最後まで自分の口から食べることを可能にするための研究、対策がますます重要です。経管栄養はあくまでも最後の手段にしたい、してほしいと願います。残念ながら経管栄養にならざるを得なくなってもそれだけに頼ることなく嚥下訓練を繰り返し進めて、手間も時間もかかり、苦労も困難も山積ですが、口から食べられる食事を決してあきらめないでいただきたいと思います。 十数年前の嚥下食の審査員をきっかけに、私は料理研究家として、おいしく楽しく喜んで食べていただける嚥下食とはどんなものなのか、自分なりに取り組んできました。まず、ペースト状でなければまったく食べられないという人にも、1つ1つの素材の味を重視してあげたいと考えました。 また、高齢者にとってどのような調理法がおいしく食べやすいのか?ということも考えました。食事を拝見すると、みじん切りのものがほとんどで、肉類はもっぱらひき肉です。しかし、これは咀嚼しないため、意外に食べにくいのです。きちんと咀嚼しないで飲み込んでしまうことが多くなるので味の実感もなく、未消化で整腸作用にも良くありません。噛むという行為が少なくなると脳が活性化されにくくなる、という研究も発表されているようです。 では、どのようにしたらそんな事態を防げるのでしょうか? たとえ第1回 食べることは、生きること18 歯科衛生士 Vol. 35 No. 1/2011

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