歯科衛生士 2016年11月
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生野照子Teruko Ikuno社会医療法人なにわ生野病院心療内科医師森崎市治郎Ichijiro Morisaki梅花女子大学看護保健学部口腔保健学科大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部歯科医師〈引用文献〉1.Johansson AK, Norring C, Unell L, Johansson A. Eating disorders and oral health:  a matched case-control study. Eur J Oral Sci 2012;120(1):61-68.2.Conviser JH, Fisher SD, Mitchell KB. Oral care behavior after purging in a sample of  women with bulimia nervosa. J Am Dent Assoc 2014;145(4):352-354.3.MacDonald LL. Eating Disorders. In:Darby ML,Walsh MM(ed). Dental Hygiene Theory and Practice 4th Ed. Toronto:Elsevier,2015 :954-972.4.平成10年厚生労働省特定疾患中枢性摂食異常症調査研究班調査.(文献4より引用)生不良を認識していない人と摂食障害のない群の非認識率のオッズ比は6.0であり、酸蝕症については5.5でした。 これらは摂食障害クリニックに通院中の人についての調査結果ですので、非通院者を含めると摂食障害者の実数はこれよりずっと多く、また口腔症状のある人ももっと多いと考えられますが、摂食障害のある人では、口腔衛生状態に関心が低く、歯の状態もよくない人の多いことがわかります。摂食障害は精神疾患国内の罹患者は年間約23,000人以上摂食障害とは、食べること=摂食やその関連行動が持続的に損なわれ、発症すると多様な症状が現れて、心身の健康や社会的機能に支障が生じる病気です。後述のとおり、その発症や経過には、強いストレスやトラウマ、併存する精神障害などの精神的要因が大きく関与しています。そのため、精神疾患に位置づけられており、社会文化的な影響を大きく受ける病態(culture-bound syndrome)といわれています。現代においては子どもから中年期にわたる「よくある病気(common disease)」となっています。罹患数をみると、米国では女性が約20万人、男性が約10万人と発表されています。わが国では全国的なデータが少なく、1998年の時点で年間23,000人あたりと推測されています(図2)が、実態はもっと多いと思われます。男女差は約1:10で、若い女性に多発しますが、近年は体型を気にする男性が多くなったことも影響して、男性にも増えています。生野照子 社会医療法人なにわ生野病院 心療内科・医師生野照子 社会医療法人なにわ生野病院 心療内科・医師 しかし、通常、歯科受診者のすべてに摂食障害の有無を確認してから診療を始めることはありません。となれば、歯科衛生士の皆さんが、歯科衛生指導や処置を行うときに患者さんの口腔内所見などから「もしかして……?」と気づき、摂食障害の可能性も想定して予防・治療計画を考える必要があります。本特集で知識と適切な対応を身につけ、患者さんの口腔を守る一助としていただければと思います。図2 摂食障害の推定患者数(1998年時点)歯肉出血米国のテキストでは重要なテーマとしてページが割かれている今日の口腔保健において「摂食障害」は重要なテーマの1つになっています。米国の歯科衛生士のためのテキスト『Dental Hygiene Theory and Practice』の初版(1995年)では17ページ、第4版(2015年)では19ページにもわたって、摂食障害について記述されています3)。1.1神経性やせ症12,500人神経性過食症6,500人非定型摂食障害4,200人77歯科衛生士 November 2016 vol.40

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