歯科衛生士 2016年12月
4/8

糖尿病も歯周病も同じ“国民病”歯科衛生士は、チェアサイドで未病の人々を健康に導く守り人 私は常々、歯科衛生士の皆さんの仕事はすばらしいものだと考えています。なぜなら、まだ糖尿病や歯周病になっていない未み病びょうの人々、特にかけがえのない次世代を発症から救えるからです。 誠に残念ですが、医科の私たちはたとえ国民病に対処したいと思っても、その診断がついた人にしか直接関与することはできません。そこで、歯科衛生士の皆さんの出番です。幸いなことに、歯科医院には子どもから、若い女性、高齢者に至るまで、あらゆる年齢層の人々が来院されます。この方々に、疾患に関する正しい知識と自分の身を守る智慧を授けることができれば、歯科衛生士の力で国民を健康に導くことができるはずなのです。 本特集では、私の専門である糖尿病を例に、疾患を取りまく社会的背景と、それをふまえたチェアサイドでの取り組み方を皆さんにご紹介致します。 日本では1997~2007年の10年間で、糖尿病がその予備軍(糖代謝異常)も含めると1.6倍に増加しています(図1)1)。厚生労働省による最新の調査では、その増加傾向は減少に転じていると報告されていますが1)、2012年から調査対象が変わっているため※1、鵜呑みにはできません。 実際、九州大学が実施している世界的疫学調査・久山町研究※2の結果から類推すると、糖尿病予備群も含めたその数は4,000万人にも達すると言われています(図1)2)。平成世代が生まれた時から置かれている社会環境を考えますと、糖尿病人口は今後さらに増え続ける可能性が高いでしょう。 つまり、今この特集を書いている私自身も、私の家族も、そして読者の皆さんも、日本人全員が“糖尿病という卵をかえす孵ふ卵らん器”の中で日々暮らしていることになります。まずは、他人事ではない問題として、院内のスタッフ全員で危機意識を共有するところから始めましょう。 また、歯周病についても、国民の約8割が罹患していることが最新の調査によって示されています3)。つまり、歯周病のおかれている状況も、糖尿病と大きな差がないと考えられるでしょう。図1 糖尿病および糖尿病予備軍の推計者数厚生労働省の最新の調査では、糖尿病および糖尿病予備軍の推計者数は減少傾向にあるように見えるが、調査対象が変わっていることに注意しなければならない。一方、久山町研究における推計者数は4,000万人にも上っている。4,000万人2,050万人2,210万人1,620万人1,370万人1997年2002年2007年2012年厚生労働省調査久山町研究からの予測※1 1997年から2007年までは、全国の単位区から層化無作為抽出された300単位区内の世帯(4,246~約6,000世帯)および世帯員(11,491~約18,000人)が対象であったが、2012年の調査では層化無作為抽出された1都道府県あたり10地区計475地区内すべての世帯(約23,750世帯)、および世帯員(約61,000人)に変更されている。※2 久山町研究(ヒサヤマスタディ):1961年より福岡県久山町の40歳以上の全住民を対象に行われている疫学調査で、現在も継続中。久山町は、年齢構成、職業構成、栄養摂取状況などさまざまな数値が日本の平均と重なるため、「日本の縮図」として疫学調査の対象にふさわしいとされている。これまでに約1万人以上について調査され、追跡率は99%超、検診受診率は約80%と非常に高く、世界からも注目されている。Illustration:石川日向西田 亙Wataru Nishidaにしだわたる糖尿病内科院長医科の私たちにできない分、一人でも多くの人々に本物の知識を発信していただければ幸いです。水?NG(文献1、2より引用改変)現代社会は糖尿病の孵卵器37歯科衛生士 December 2016 vol.40

元のページ 

page 4

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です