歯科衛生士 2017年9月
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生物学的幅径Illustration: 寺田久美、佐々木 純CLINICAL特集臨床が変わるBiologic Width  全国で多くの歯科衛生士さんとお会いするなかで、どこでも必ず受ける相談が、「患者さんにOHI(口腔衛生指導)を行っても実行してくれない」「流れにのっとって歯周基本治療を行っているが、うまくいかない」というものです。理由には必ず患者さん側の問題を挙げられますが、「そもそもなぜホームケアや、デブライドメントが必要なのか?」と訊くとキョトンとされ、「歯周病やう蝕で歯を喪失してほしくないから」と言われます。 「ではなぜ歯周病で歯を喪失するのか?」と尋ねると、「歯を支えている骨がなくなるから……」。「ではなぜ骨を喪失するのか?」と尋ねると、「えっと……細 優れた料理人が「食材」に精通しているように、優秀なプログラマーが「コンピューターシステム」に精通しているように、それぞれの職種にとって、自分たちが取り扱う「素材」を熟知することはキホンのキです。私たち歯周病専門医にとって、「素材」とはまさに「歯周組織」ですが、それは歯周基本治療や歯周維持療法を担当する歯科衛生士にとってももちろん同じことでしょう。 しかし、日常臨床で歯科衛生士が肉眼的に観察できる歯周組織は粘膜の表面(上皮)だけで、歯周組織の内部構造を実際に観察する機会はまずありません。そのため、なかなか歯周組織の解剖学的な理解が深まらずに、日々戸惑いながら歯周ポケット測定やSRPをされていることが多いともお聞きします。そこで本稿では、歯周組織の中でも歯科衛生士が臨床で接する頻度が高い、歯の付着器官としての「生物学的幅径」について、肉眼的に観察できる表面構造と内部構造の関連性について解説してみたいと思います。 (牧草)黒川 綾 株式会社プラスアルファ・歯科衛生士歯周組織を知ると、臨床が変わる菌が侵入して……炎症が……」。「では炎症とは?」と尋ねると、「出血が……」となります。 そして最終的には、自身の頭の中が整理されていないことを痛感され、その後、必ず教科書を片手に再度質問されます。教科書を見せていただくと、歯周組織図に「テストに出る!」と赤丸がしてあったりして、「一度は覚えたことだったんだ」とご自身で笑われます。覚えても、理解はしていなかったのかもしれません。 筆者もかつては同じでした。19年前に修行を積んだクリニックは、歯周組織を示し、なぜ歯周病になるのか、またう蝕になるのかをきちんと説明する医院でした。私も見よう見まねで話してはいましたが、「プラークがすべての悪」と、プラークを目の仇かたきにし、質問をされる歯科衛生士さんと同様に、「なんでこんなに話してるのに、患者さんは磨かないのだろう」「悪くなるのは患者さんの責任だ」と思っていました。いま思い返してみると、それは生物学的幅径を理解していなかったために、骨を失うメカニズムや炎症所見を本当の意味で理解できていなかったからなのです。そのために、患者さんの口腔内所見と指導内容が重ならず、説得力にも欠けてしまっていたのでしょう。 牧草先生から生物学的幅径について学び直し、それらの役割を理解した後では、歯科衛生士 September 2017 vol.4128

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