歯科衛生士 2017年9月
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50001,000(人)渡部 茂Shigeru WATANABE明海大学名誉教授歯科医師香西克之Katsuyuki KOZAI広島大学大学院医歯薬保健学研究科小児歯科学研究室教授歯科医師この対応件数は、子ども虐待の実態を示す氷山の、ほんの一角に過ぎないことが想像されます。子ども虐待は、「せっかん」と言われた過去から今日まで、「生活の垢」として連綿と続いているのです。 虐待による死亡累計は、2003年から2014年までの11年間で1,000人に達しました(図2)。そして、子ども自身が親からの暴力を「これは躾しつけではなく明らかに暴力」と小児のう蝕罹患率が著しく低下している一方で、多数のう蝕歯を放置されたまま適切な治療を受けられない子どもたちがいることをご存じでしょうか。そうした状況の背景には、子どもたちが置かれている環境が大きく影響しています。今回は、その要因の1つである子ども虐待に焦点を当て、歯科衛生士として身に付けておくべき知識をまとめ、歯科診療所で何ができるのかを解説します。(編集部)羽根司人Morito HANE三重県歯科医師会副会長歯科医師森岡俊介Shunsuke MORIOKA東京歯科大学臨床教授森岡歯科医院[東京都]院長・歯科医師北村義久Yoshihisa KITAMURA(医)橿の木会さわやか歯科[奈良県]理事・歯科医師岩原香織Kaori IWAHARA日本歯科大学生命歯学部歯科法医学講座准教授歯科医師歯科からの子ども虐待への取り組みを一つに結集させて、「日本子ども虐待防止歯科研究会」を設立しました。子ども虐待をこの世から根絶していくことを目的として、日々活動しています。図2 虐待による子どもの死亡人数(累計)※第1次報告は2003年度の6ヵ月間、第5次報告は2007年度の1年3ヵ月間、他は1年間の集計。(文献4より引用改変)子どもの権利条約正式名は「児童の権利に関する条約」。子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた。18歳未満を「児童(子ども)」と定義し、国際人権規約が定める基本的人権を、その生存、成長、発達の過程で特別な保護と援助を必要とする子どもの視点から詳説したもの。1989年の第44回国連総会で採択された。児童虐待防止法正式名は「児童虐待の防止等に関する法律」。2000年施行。児童虐待を4種類に定義し、禁止した。2004年の法改正で、虐待の確証がなくても疑われる場合には、児童相談所などへ通報することが義務づけられた。さらに2008年の改正では、児童相談所の権限が強化され、立ち入り調査に親の同意が得られない場合、裁判所の許可を得れば、強制的に立ち入りできるようになった。第1次報告第2次報告第3次報告第9次報告第8次報告第7次報告第6次報告第5次報告第4次報告第10次報告第11次報告第12次報告気づく割合が50%を超えるのは17歳という川崎らの報告3)が示すように、子ども本人、特に低年齢児が周囲に虐待を訴える可能性は極めて低いことが知られています。 このように、数の上からも悲惨な状況からも、子ども虐待は、いま子どもたちの世界でもっとも大きな社会問題となっています。25831692954375656537518509401,0091,08083歯科衛生士 September 2017 vol.41

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