歯科衛生士 2017年10月
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はじめに科学技術の進歩で浮かび上がる、う蝕と歯周病の真実 かつて、プラークをはじめとする口腔バイオフィルム細菌叢を構成する細菌の種類と数を調べることは極めて大変な作業でした。試料(サンプル)を嫌気チャンバー*1 という装置の中で血液寒天培地に塗布して培養し、生えてきた一つ一つのコロニーを分離し、コロニーのさまざまな生化学的性質を調べることで細菌種を決定(同定)し、数を数えることで細菌数を決定(定量)していました。 しかし、1990年代に入り遺伝子によって細菌種の同定と定量ができるようになると、口腔バイオフィルム細菌叢の解析は急速に進みます。特に細菌に特有の遺伝子16S rDNAを標的とした細菌種の同定・定量技術は、2000年代に開発された次世代DNAシーケンサー*2の機はたらく能する細菌う蝕や歯周病にかかわる細菌として頭に思い描くのは、mutans streptococci、A.actinomycetemcomitans、P.gingivalis、T.forsythensisなど、いわゆる“病原菌”に限られるのではないでしょうか。しかし、最近の研究によって、実はそれら単独のはたらきによるものではなく、口腔常在細菌の“協チームワーク力”によって、う蝕や歯周病が引き起こされていることがわかってきました。本特集では、プラークをお口の中の生態系と捉え、細菌たちの“チームワーク”でう蝕や歯周病が起こるメカニズムを解説します。(編集部)プラスα特集登場にともなって、誰でも簡単に細菌叢を構成する細菌種と数を推定することを可能としました。その結果明らかになったことは、う蝕や歯周病にかかわるプラーク細菌叢は、500種類から1,000種類という極めて多様な細菌種から構成されているという事実です。 この事実は、う蝕はmutans streptococci(ミュー タンスレンサ球菌;MS菌)が起こし、歯周病はPorphyromonas gingivalis(Pg菌)が起こすというような単純な話ではなく、疾患はさまざまな細菌どうしがかかわり合いながら起こされることを示しています。実際の病巣、特に初期病巣では、MS菌もPg菌も少数派なのです。*1 嫌気チャンバー:嫌気ボックスとも。酸素のない密閉された環境で、嫌気性細菌の培養など各種実験が行える装置。*2 次世代DNAシーケンサー:遺伝子の塩基配列をそれまでの装置とは桁違いの高速で解析できる装置。歯科衛生士 October 2017 vol.4182

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