歯科衛生士 2017年10月
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illustration:根岸美帆髙橋信博Nobuhiro TAKAHASHI東北大学大学院歯学研究科口腔生化学分野 教授歯科医師 口腔常在菌は、通常、う蝕や歯周病を起こしません。しかし何らかの原因でそのバランスが崩れると、細菌たちはそれぞれの機はたらき能を活かした“チームワーク”によって、疾患を発症し進行させていきます。その過程では、チームメンバーの性格が変化したり、チームの主役が交代したりと、さまざまなことが生じます。これは、チームワークによってプラーク内の環境が変化し、それがチームのメンバーである個々の細菌にも影響してしまうからです。 このような細菌と環境との相互作用、すなわち、歯 プラークを構成する細菌は、ただそこにいるだけで疾患を引き起こすのでしょうか。 う蝕や歯周病にはさまざまな細菌がかかわります。その発症は、“原因菌”の存在そのものではなく、これら多くの細菌の機はたらき能、特に代謝機能によって決まるのです。細菌は私たちの細胞と同様に、生きていて、外部から栄養を摂取して代謝し、エネルギーを得るとともにさまざまな副産物が作られます。私たちの細胞の場合は、糖を代謝するとエネルギーを得て最終的に二酸化炭素と水を排出しますが、たとえば、う蝕に関係する細菌は、糖を代謝してエネルギーを得るとともに副産物として酸を産生します。そして、この産生された酸が、歯の表面を脱灰しう蝕を引き起こします。これが、この細菌の機はたらき能です。 言い換えると、う蝕や歯周病の発症を理解するためには、細菌の代謝機能を理解することが必要なのです。肉縁上/縁下プラークを1つの生態系と捉えて口腔疾患の病因を理解することを「生態学的プラーク説(ecological plaque hypothesis)」1)といいます。本稿では、この「生態学的プラーク説」にのっとり、私たちと健全に共存しているプラーク細菌叢が、どのようにチームを組み、う蝕や歯周病を発症させていくのか見ていきます。その姿から、う蝕や歯周病は特定の細菌が原因となる「病原菌感染症」ではなく、細菌叢を構成する細菌たちのチームワークによって生ずる「細菌性疾患」であることが理解できると思います。プラーク中の細菌たちの、驚きのチームワーク疾患の発症は“原因菌”がいることではなく、細菌たちの機はたらき能によって決まるプラークという生態系の中で、細菌たちはどう機はたらいて能しているのか?83歯科衛生士 October 2017 vol.41

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