歯科衛生士 2017年12月
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発音が気になる子に、歯科は何ができる?子どもの運動能力が低くなったと感じませんか?横山 薫 昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科・歯科医師 発達期の子どもの日常生活活動量は、持久力や瞬発力、敏捷性などの体力・運動能力に大きく影響しますが1)、近年の交通の利便化やテレビゲームなどの非活動的な遊び時間などの増加、塾通いなどにより、減少してきています。小学生の1日歩数は1987年では20,000歩を超えていましたが2)、2007年では平日で13,000~18,000歩、休日で8,500~10,500歩に減少しており、高学年になるほど少なくなる傾向がみられたと報告されています3)。 また、図1で示すように学校の管理下で発生した負傷と骨折の発生率をみると、1966年から30年間増加を続けており、運動能力の低下は負傷回避能力の低下にもつながっていることが伺えます4)。さらに、運動能力の低下からロコモティブシンドロームを引き起こしている現状が明らかとなり5)、平成28年度から学童期運動器検診*が開始されるようになりました。*学童期運動器検診:家庭における観察、学校における観察、学校医による健康診断のトリプルチェックにより評価する。評価項目は側弯や四肢の状態についてで、検診で異常が認められた場合は指導を行い、その結果改善しなければ2次検診、3次検診を実施する。運動能力の低下は口腔にも現れてきている横山 薫 昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科・歯科医師 口腔異常習癖や安静時の口唇、舌の位置異常が、開咬症や歯列不正などの形態異常を誘発することは古くから知られており、矯正治療に併用して口腔筋機能療法(MFT:Oral Myofunctional Therapy、以下MFT)が行われてきました6)。 これまでは、咀嚼や発音の問題は生活にほとんど支障が出ず「障害」とされませんでしたが、近年の子どもの口腔機能の低下にともない、「咀嚼障害」「発音障害」と呼ばざるを得ない状況となってきました。 咀嚼に関しては食育支援が提唱され実施されていますが7)、気を付けなければならないのは、多方面・多様な対応が必要だということです。なぜなら、子どもの口腔内では口腔機能低下、口腔異常習癖、口腔の形態異常がお互いを悪化させる「負の連鎖」が起きており、症状が重症化するほど、1つの原因に対応するだけでは連鎖を断ち切ることができないのです。 発音の問題も同様で、口腔機能低下、形態異常、口腔異常習癖、さらには精神発達や言語発達の問題など、さまざまな要因が関連し合っています。〈引用文献〉1.加賀 勝,平田和子,高橋香代,清野佳紀.成長期における日常生活活動量の体力・運動能力に及ぼす影響.日本小児科学会誌 2002;106(5):655-664.2.小笠原由法,外岡立人,松本隆任,今井 浩.小児の日常活動性の評価-歩数計による分析-.小児科 1998;29:441-442.3.足立 稔,笹山健作,引原有輝,沖嶋今日太,水内秀次,角南良幸,塩見優子,西牟田 守,菊永茂司,田中宏暁,齋藤慎一,吉武 裕.小学生の日常生活における身体活動量の評価 二重標識水法と加速度計法による検討.体力科学 2007;56(3):347-355.4.鳥居 俊.子どもの骨折は増加しているか 過去30年間の学校の管理下の災害基本統計から.子どもと発育発達 2004;2(3):202-205.5.柴田輝明.小児のロコモティブシンドローム.日本統合医療学会誌 2016;9(1):54-58.6.高橋 治,高橋未哉子.新版 口腔機能療法 MFTの実際 上巻 MFTの基礎と臨床例.東京:クインテッセンス出版,2012.7.食育支援ガイドブック作成委員会(著).向井美惠,武井啓一(編).歯科からアプローチする食育支援ガイドブック ライフステージに応じた食べ方支援とその実.東京:医歯薬出版,2009.図1 学校管理下の負傷・骨折発生率の変化(%)987654321019661970197219741976197819831985198719891991199319951997小学校高校中学校骨折小学校高校中学校負傷(日本体育・学校健康センター,学校の管理下の災害―基本統計―より作成)49歯科衛生士 December 2017 vol.41

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