歯科衛生士 2018年1月
8/8

細菌の“エサ”でよみとくペリオ最前線元祖ペリオオタク Dr.Hiroの腸内細菌の驚くべき力ヒトの常在菌は、実に多様パンダが竹を消化できる理由をDNAから探ってみた 最近では、さまざまな動物のDNAが解読されている。2010年にはNatureでジャイアントパンダの全DNAが発表されたが3)、そこで意外なことが判明した。なんと、パンダ自身は竹を分解できる消化酵素を持っていないのである。パンダの仲間であるホッキョクグマはアザラシを食べるし、ヒグマは鮭を食べるのに、なぜかパンダは竹ばかり食べている(おいしいのかな~?)。きっと竹を分解する消化酵素を持っているんだろうと思いきや、DNA上では見つからなかった。では、なぜ竹を消化できるのかというと、腸内細菌(クロストリジウム菌種)が分解してくれるのである4)。でも、こういうことってパンダや牛のような特別な動物だけで起こっているわけではない。人間だってそんなことがあることがわかっている。日本人が海藻を消化できるようになったのは…… 西洋人と違って、われわれ日本人は海藻を食べてもそれを消化できるが、それは海藻を分解できる細菌(バクテロイデス・プレビウス)を腸内細菌として持っているからだ。この細菌はポルフィラナーゼやアガラーゼのような海藻を分解するのに必要な酵素を持っている。面白いことに、われわれの腸内細菌であるバクテロイデスがこの酵素の遺伝子を獲得したのは海洋性細菌(ゾベリア・ガラクタニボランス)から譲り受けたらしい5)(図2)。実は、この海洋性細菌は海藻に引っ付いて日本人のお腹の中に入り込み、もともといた腸内細菌に海藻の分解酵素の遺伝子を手渡したと推測されている。図2 日本人が海藻を消化できるワケおそらく海洋性細菌が海藻に引っ付いて日本人のお腹の中に侵入し、もともといた腸内細菌に酵素の遺伝子を譲った可能性が考えられている。細菌レベルでもDNAを解読してみた DNAシークエンサーを使えば、細菌のDNAも解読できる。これを応用して、ヒトの身体に住み着いている常在菌を調べ上げる、ヒトマイクロバイオーム計画(Human Microbiome Project)が2012年にアメリカで立ち上がった。ヒトの身体を、皮膚、口腔、腸、膣、尿路の5つの領域に分け、そこに住み着いている常在菌を調べてわかったのは、その多様性であった。 よくよく考えれば、この5つの領域はすべて身体の外表面である。皮膚はあたりまえだが、口腔や腸という消化器官も身体を突き抜けている管なので、その表面は身体の“外”なのだ。ということは、すべて身体の外という点では共通の環境なのに、部位によって常在菌の菌叢は大きく違っていたことになる。きっとこれは、それぞれの環境が異なるからだろう。カサカサに乾燥した皮膚の上などはあたかも“砂漠”のような環境で、水分と栄養豊富な腸は“アマゾンの熱帯雨林”といったところだろうか(図3)(フムフム)。環境や年齢などの違いで住み着く菌は変わる しかも、この多様性は“部位”によるものだけではなかった。同じ部位でも“年齢”によって変化する(赤ちゃんの腸内細菌と成人の腸内細菌は大きく異なる)。また、“個人差”もあることがわかった。ここまで多様性があれば、この計画の収穫は一見少なそうに思える。しかし、思わぬところに収穫があった。それが“エサ”である。図3 常在菌の多様性乾燥した皮膚の上に住み着いている常在菌と、湿って栄養豊富な腸の中に住み着いている常在菌が異なることは容易に想像できる。細菌の優勢を決めるのは“エサ”遺伝子腸内細菌海洋性細菌75歯科衛生士 January 2018 vol.42

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る