治癒の歯内療法 新版
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003序 治療技術の進歩についていくことは容易ではない.近年開発されたニッケル‐チタン(Ni-Ti)合金のファイルでさえ,規格や使用法が毎年のように目まぐるしく変化している.より速く,より簡便に,そして,より予知性の高い術式を臨床医は期待しているのであるが,「すべてをカバーする1つの新しい器具や薬剤,術式」など,永遠に期待できるはずもない.その逆に,急速な技術革新の蔭に,歯内療法の真の目的が薄れてしまうことへの危惧を拭えない.医療全般に共通していることであるが,治療の目的は,「生体の治癒を最大限に引き出すこと」である.治癒には,根尖部のわずか数ミクロンにおける組織学的あるいは免疫学的な治癒から,患者の心の治癒までさまざまなものがある.口腔疾患(う蝕や歯周病)と全身とのかかわりが注目されつつある現在,歯科治療と全身疾患との関連も無視することはできない. そこで,この本の第1の目的として,「生体の治癒を考慮した歯内療法」を掲げた.この場合の治癒とは,主に組織学的な治癒を指す.歯内療法に付随した痛み,全身や心の問題は,正しい知識と,正確な技術,誠実な治療態度で,直接的に,あるいは間接的にカバーされると信じている. 第2の目的としては,「より保存的,よりやさしい歯内療法」を掲げた.象牙質‐歯髄複合体という言葉でも象徴されるように,近代の歯内療法は,象牙質が感染した時点からさまざまな治療の役割分担が開始する.いかにうまく歯髄を取るかではなく,いかに歯髄を保存するかに,最初の診断と治療努力が向けられなければならない.また,たとえ抜髄に至った場合でも,いかに歯質を保存した状態で修復処置を終えるかに配慮が払われねばならない. 第3の目的としては,「標準的および革新的な器具や技術の評価と導入」を掲げた.患者と術者がともに,より快適に,より予知性をもって治療のゴールを達成するために,新しい器具や治療術式を導入することは,医療人としての義務である.また,従来からの器具や術式の利点を再評価,踏襲することも大切である.本のなかでは,特定の器具や術式を過大評価せず,筆者らの臨床経験をもとに,できるだけ公平に判断することを心がけた. 第4の目的としては,「わかりやすさ」を掲げた.カラーアトラス形式をとり,可及的に臨床的な観点から考察を行った. 我慢と忍耐の歯内療法を,楽しい歯内療法(ハッピー・エンド)に変えることが,この本の最終目的である.2010年9月月星光博,福西一浩

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