治癒の歯内療法 新版
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治癒の歯内療法160治療の流れ 抜髄処置を例にとり,根管治療の流れを大まかに示せばFig 8のようになる.すなわち,①髄腔開拡,②作業長の決定,③根管のプレパレーション,④根管清掃と貼薬,⑤根管充填という流れである.抜髄処置において治療成績を大きく左右する因子は,いかに根尖孔付近に細菌を入れ込まないかということである.そのため,根管治療を開始する前には最低限ラバーダム防湿を行うことが必須となる.また,その後の根管処置における一連の操作で切削片をできるだけ根尖方向に運ばないことも重要である. CHAPTER 6では髄腔開拡から根管のプレパレーションまでについて述べる.髄腔開拡 未処置歯では髄腔開拡というステップから治療の第一歩が始まる.これは,はじめての歯髄腔内へのアプローチであり,その良し悪しによってその後の治療の成否が左右される非常に重要な操作であるといっても過言ではない.目的は,根管が直視でき,根管用器具が容易に根管内に挿入しやすいような形態に整えることにある. 髄腔開拡では,歯髄腔への穿孔,髄腔内壁の形成(ac-cess cavity),天蓋の除去,そして根管口の明示・拡大の各操作が必要となるが,このステージでマイクロスコープを使用することの意義は,想像以上に大きい.Fig 8と照らし合わせながら,解説を加える.歯髄腔への穿孔と髄腔内壁の形成 これらを正しく行うためには,歯髄腔の正確な解剖学的知識とエックス線写真の読影が重要となる.つまり,歯髄腔の形や大きさのみならず,これからアプローチする根管の数や形態,湾曲度などを術前にしっかりと把握しておくことが大切である.近年普及している歯科用コーンビームCTは,それらの診査に絶大な威力を発揮する(CHAPTER 9参照). 歯髄腔への穿孔(Fig 8b)は,よく切れるカーバイドバーを用い,解剖学的形態に基づいてあらかじめ設定した外形の中央部を歯軸に平行になるように切削して行う.抵抗がなくなった時点で穿孔が確認され,その後,穿孔部を少しずつ慎重に拡大していく.この操作中,とくに大臼歯において,第二および第三象牙質の形成により歯髄腔が狭窄している場合では,髄床底を削らないように注意することが重要である.歯髄腔のおおまかな概形が形成されたら,根管口の位置を確認する.大臼歯の場合,各根管口は髄床底にみられる溝によって結ばれたようになっており,その溝をたどることにより根管口を比較的容易に発見することが可能である.この溝のことを,黒線あるいはrelated grooveとよんでいる.根管口の位置が確認できたら,根管からできるだけ直線的に立ち上がるように髄腔内壁の形成を行う(ストレートアクセスの付与/Fig 8c).器具のアクセスを確実にするため,大臼歯では近心内壁の削除をやや多くするが,過剰な切削はひかえる.また,根管治療を施した歯は必ずしも全部被覆冠を装着するとは限らないため,いきなり咬合面(咬頭)を削除することは戒めなければならない.最終修復を十分考えたうえで,健全な歯質はできるだけ保存するように配慮する必要がある.天蓋の除去と根管口の明示・拡大 天蓋の除去(Fig 8d)にあたっては,近遠心の髄角部が張り出しているため,取り残さないように留意すべきであるが,逆に過剰切削にならないように慎重に行わなければならない.やや大きめのラウンドバーを用い,外形線に沿ってかきあげるように操作を進める.つぎに,根管の湾曲状態を知るために細いファイルを挿入し,湾曲点付近まで(根管上部の直線的な部分)のおおまかな距離と方向を把握することが大切である(Fig 8e).その後,通常,ピーソーリーマーやゲーツグリッデンドリルを使用して根管口の明示・拡大を行う(Fig 8f)が,その際の電気エンジンの回転数は10,000rpm前後が推奨されている.また,根管壁と髄腔内壁を同時にスムーズに移行するような形態に整えるために,粒子が非常に細かい根管口明示用ダイヤモンドバー(Fig 9)を利用することもある.このバーは,先端にダイヤモンド粒子がついておらず,専用の低速,低トルクタービンである「スーパーロードL」(最高40,000rpm,ヨシダ/Fig 10)に装着して使用することで歯質の過剰切削が回避され,その後の根管内へのアプローチが容易となる.しかし,癒合根や不完全分岐根管,もしくは圧平を受けている根にみられるようなイスムスやフィンが存在する根管では,マイクロスコープを使用しながらの操作が効果的である.超音波振動装置

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