99症例で知るインプラント日常臨床
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補綴外科審美矯正テクノロジーリサーチリカバリーメインテナンス 本章では全員発表会でインプラント補綴の現状が浮き彫りにされており、そこからすくい取ったエッセンスをまとめてみたい。1.咬合再構築と審美性の獲得 咬合の確立という意味で、インプラント補綴物は固定性のみならず可撤性上部構造でも天然歯のみを支台とする補綴物より優位にあるといえよう。したがって、本発表会で咬合の再構築を第一目標とする症例が多いことが理解できる。特にインプラント補綴は部分床義歯にとっての難症例であるすれ違い咬合にも十分に対応可能なことが報告されており、その有用性が納得させられた。また、インプラント支台の上部構造は経時的に安定であり、口腔機能全体の長期的維持という点でも有効であることが報告された。 歯科治療における審美の重要性が高まっているが、前歯部補綴の審美性を獲得するには、修復物や歯周組織の美しさとともに臼歯部での咬合の確立は必須である。そこから審美症例への臼歯部も含んだインプラント応用の報告は合理性をもっていることが理解できる。これらの治療を成功させるには、診断において骨形態や骨量の確認に留まらず、上部構造に適した埋入位置と方向を決定することが必要であり、これらを考慮したCTの読影やテンプレートの活用も報告された。また、残存天然歯の保存の可否を的確に判断する必要もあり、結果を見据えたインプラント診断の重要性があらためて認識された。2.プロビジョナルクラウンの重要性 診断時の完全な結果予測は不可能であり、プロビジョナルクラウンの利用が必要である。上下顎堤形態のアンバランスな症例や審美症例にプロビジョナルクラウンを有効に活用した例が報告されており、前者ではプロビジョナルクラウンを用いた咬合関係の改善が、後者では縁下粘膜形態の調整が行われていた。3.グラフトレスの傾向 確実な咬合負担を目的とした十分な長さと太さのインプラントを適用するために、従来は骨造成が多用されていた。しかし、低侵襲化や時間短縮化を目的としたグラフトレス手術が広く行われており、今回も報告されている。顎骨頬舌径の不足にはボーンスプレッディング法が、高径の不足にはショートインプラントや傾斜埋入法の適用、あるいはシミュレーションソフトとサージカルガイドを組み合わせて骨のある部位に合理的に埋入する方法などが報告された。いずれも良好な経過を示しており、インプラント症例の拡大につながる方法である。4.多数歯欠損症例への対応 フルマウス症例あるいは多数歯欠損症例での簡易性、活用性、設計の可変性、経済性を考慮したいくつかの例が報告された。リジッドな設計としてはテレスコープタイプの術者可撤式補綴物が、また患者主訴に応じてボールアタッチメント、マグネットアタッチメントが使用され良好な経過が認められた。5.プラークコントロールの問題 メインテナンスにかかわることであるが、自閉症患者のプラークコントロールの問題が取り上げられており、興味深かった。これは高齢者のメインテナンスにもつながる問題であり、こちらのほうが深刻となる可能性があるため、真摯に向き合う必要があろう。インプラント補綴の現状解説塩田 真東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科インプラント・口腔再生医学准教授東京医科歯科大学歯学部卒業ITIフェロー1章 インプラント補綴56

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