別冊 臨床家のための矯正YEAR BOOK'12
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14臨床家のための矯正YEAR BOOK’12FRONT TOPICS[巻頭トピックス]そもそも,矯正歯科治療を受けるのは,なぜ? そもそも,人はなぜ矯正歯科治療を受けるのだろうか.もちろん,歯並びが悪くセルフケアしにくい,うまく咬めない・咬み切れない,審美的に気になる,発音がうまくできない…など多くの理由はあろう.しかし,そのような症状をもつ人のうち,矯正歯科治療に踏み込む人は,非常に少ないのが現状だ.しかも,痛みや違和感,治療期間,経済的要件など,治療を貫徹するには多くの困難がつきまとう.それなのになぜ,患者は治療を決意し,それを全うするのだろうか.その答えを,東日本大震災の被災患者たちが示唆してくれた. 東日本大震災では,多かれ少なかれ何らかの被害を当院の患者全員が受けたと言える.多くの方は「大変な被害の人はたくさんいますから,自分の被害は軽いほうですよ.大丈夫です」と言いながら,数か月後にはそれぞれの治療を再開してくれた.震災後初めて当院に戻って来てくれた時の言葉を少しあげてみよう.患者1:8歳女子,震災時反対咬合の一期治療中だった(図1). 「家が流され,お祖母ちゃんや従姉妹や友だちがたくさん亡くなりました.隣の県に避難していますから,大丈夫です.でも,装置が流されたから,使えなかったの.ごめんなさい.また作ってくれますか」(父親は震災解雇され,収入の道が断たれている.上顎前方牽引装置を流失して使えなかったことを詫びてくれた)患者2:17歳男子,震災時二期治療中だった(図2). 「自宅の1階は天井まで浸水したけど,2階は無事だからそこに住んでいます.ウチの被害なんか全然大したことないほうですよ.大丈夫です! 治療を続けてください」(父親の職場が被災して収入の道が断たれており,大学進学を断念しようと思っていた)患者3: 48歳女性,震災時保定観察中だった. 「ようやくここに戻ってこられて,ほっとしました.ウチはいろいろ壊れてしまったけど,この診療室は絶対無事だと思っていました.ほんとうに無事でいてくれて嬉しいです」(自宅全壊で仮設住宅に暮らしている)患者4: 44歳女性,震災時動的治療中だった. 「小学校PTA本部役員なので,自宅の片付けをほったらかしのままで避難所運営をしていました.いろいろ見たくないものまで見てしまいました.ほんとうに辛かったです.あっ,あれから初めて辛いと言いました,私.涙が出たのも初めてです….避難所が終了して,ようやくわが家の復旧ができました.今日からようやく自分の治療に戻れます.うれしいです」(自宅は一部損壊だったが,家族と家庭を二の次にして支援側で奮闘した)踏ん張る力,しなやかな心矯正歯科治療が育む「生きる力」伊藤智恵Fostering Resiliency in Growing up Patients by Orthodontic TreatmentTomoe ItoIto Orthodontic Clinicaddress:1-7-25, Uesugi, Aoba-ku, Sendai-shi, Miyagi 980-0011キーワード:リズィリエンシー,語り,メンター宮城県仙台市開業連絡先:〒980‐0011 宮城県仙台市青葉区上杉1‐7‐25 伊藤矯正歯科クリニック[「想定外」に対処するつよさとは]

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