別冊 臨床家のための矯正YEAR BOOK'12
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62臨床家のための矯正YEAR BOOK’12第一大臼歯の位置を意識した診断とメカニックス中島榮一郎An Orthodontic Diagnosis and Mechanics After the due Deliberation of the First Molar PositionEiichiro NakajimaNakajima Orthodontic Officeaddress:NX Bldg. 1F, 2-33-1 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0034キーワード:第一大臼歯,キーリッジ,抗重力東京都文京区開業連絡先:〒113‐0034 東京都文京区湯島2‐33‐1 NXビル1F 中島矯正歯科クリニックはじめに 「矯正臨床で第一大臼歯を意識しない診断やメカニックスなんてないだろう」というのが,この題名をご覧になった大方の反応であろう.たしかにこの症例はClassⅡだからClassⅠにしよう,ClassⅢだから云々,と述べているときは上下の第一大臼歯の関係を問題にしている.しかし,この時に問題とされているのは上下の第一大臼歯の近遠心関係だけで,頭蓋=生体の中でどのような位置=環境で存在し,機能しているかは考慮されていない.ここからは実際の生体の形態や機能および成長発育に則した診断や治療計画などが生まれてくる土壌は残念ながらみられない. 上顎第一大臼歯の位置は,ヒトが二足歩行をすることと密接にかかわっており,抗重力との関係が深い.そのために,上下の第一大臼歯の位置を決めるのにはまず,上顎における第一大臼歯の位置を認識する必要がある(図1).これについては成書,先行論文,拙書を参照されたい1~5. 今回は,頭蓋における第一大臼歯の位置を意識した診断や治療計画を取り入れた症例をもとに,第一大臼歯の位置を考慮した診断法と利用法を紹介する.上顎第一大臼歯の位置を決める方法が存在しない 矯正診断にはセファロが広く使われているが,驚くべきことに現在一般的に用いられている診断法の中に,頭蓋における上顎第一大臼歯の位置を判断する項目がある診断法は3つしかない.Wylie,Sas-souni,Ricketts分析である. もっとも広く使われているDownsやSteiner,Tweed分析などにはこれに該当する項目はみられない6.これでは上顎第一大臼歯が頭蓋の中のどの位置にあっても,治療結果としてそこだけがClassⅠになりさえすればよいことになってしまう. そこで,他の診断項目との相関性の高さから,今回はRicketts 分析を用いた診断法とその利用法を,症例をまじえて説明したい.Ricketts分析における上顎第一大臼歯の位置に関する項目 51の計測項目の中の「歯と骨格との関係に関連するフィールド#Ⅲ」の中の18番目の計測項目にあたり,次のように定義される7.1.上顎第一大臼歯の位置(Upper molar position)1) 計測部位;咬合平面上でPTV(Pterygoid verti-本文中および図説明では次の用語を以下の表記で示す.T1=治療開始時,T2=治療終了時,Tm=治療途中,RO=保定(ex)RO2=保定2年).CLINICAL CASE STUDY[症例に学ぶ]

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