アレキサンダーディシプリン 長期安定性
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CHAPTER11矯正学が歯科のなかでも誇らしい専門分野となってから, 100年以上が経過した. この間に何百万人もの患者が治療されたにもかかわらず, 日常的に行われる決まりきった診療の方法を教え, 実践できる, 普遍的な ガイドラインは未だ確立されていない. もしわれわれが最終目標をどこに定めれば良いかを知っているならば, “最終結果をつねに意識して始めよう”という言い回しは, それはそれで良いであろう. この表現法をこの本に当てはめるならば, “安定性をつねに意識して治療を始めよう”である.長い年月にわたり, 矯正学の世界では長期安定性の主題を解決しようとして, “黄金の馬蹄(訳者注:魔よけ福運の力があるとされている)”を探し続けている. これには, とても多くの因子が含まれている, すなわち成長, 習癖, 治療法, 荷重そして協力度. WebsterのNew World Dictionaryでは, 安定した(stable)を“変わらない”や“堅固な(fi rm),固定した(fi xed),永続した(lasting)”と定義している. この主題を口腔内に存在するもの, とくに歯に関連づけたとき, それらが頑丈に固定され, 患者の生涯を通して保ち続けられるということに, 現実味があると思えるだろうか. いくつかの変数, 歯の萌出パターンや方向, 骨格型, 筋肉, そして習癖などが存在するが, それらの多くは, 患者の生涯を通した矯正医による制御が不可能なものである. Dr. Littleは, irregularity index(下顎前歯の叢生の程度を表す指数)が3mm以下の咬合であれば安定していると考えられると独断的に述べている1.現実には, われわれは歯をコンクリートのなかに植えることはできない. 完璧性を求めることは現実的なゴールではない. 生きている硬組織や軟組織が歯に圧を加え, 歯の位置は変化し移動する. われわれの挑戦は, 口腔内で歯が留まることのできる特定の場所を見つけ出すことである. そうすればバランスのとれた口腔内の力により, 歯は安定し, 維持されるであろう. 結局のところ今日, われわれは矯正学の専門家として, 適正な機能的咬合, 良好な審美性と安定性を達成するために, 必要な鍵を見つけ出すことに, 近づいているのだろうか. 歴史的には, われわれの過去の多くの誤りから学ぶことなく, その振り子は非抜歯から抜歯へ振れ, そしてまた非抜歯に戻るというように揺れ動いている. 近年の矯正学の世界では, コンビームCTや ミニインプラントを使った垂直的な アンカレッジコントロールといった, 素晴らしい技術や新しく視点の異なったメカニクスが, 大きな将来性を示している. しかし, この世の中にお金と無関係なものはほとんどない. 問いたいことは, 誰が何を支配しているのかを理解するのに十分な知恵をわれわれは有しているのかどうか, である. それらはその価格に見合う価値があるのか, ということだ. 序論:安定性をつねに意識して 治療を始めよう“人格は繰り返す行動の総計である. それゆえに, 優秀さは単発的な行動にあらず, 習慣である”– Aristotle

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