乳歯列期における外傷歯の診断と治療
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072Ⅲ乳歯外傷を伴う顎骨骨折線上の処置Ⅲ‐14はじめに症例1 以前より,外傷時の顎骨骨折線上の歯については,骨折処置の立場から議論されているが,抜歯すべきか保存すべきかについて,一定の見解は得られていない.一般的には,顎骨の整復を行う際に,骨折線上の歯が感染源となるか,あるいは整復の妨げとなるかの2点を考慮して,抜歯か保存かを決定する. 骨折線上の歯が感染源となるかどうかについては,骨折線上の歯を保存して顎骨の整復固定を行うと術後感染症が高率に発生するとの意見がある一方で,逆に,骨折線上の歯を抜歯することで十分な骨の固定が得られなくなり,やはり術後感染を起こすとの意見もあるが,これらはいずれも科学的根拠が明確ではない. したがって,実際の処置にあたっては,高度な炎症所見のある歯や顎骨整復の妨げとなる歯は抜歯されるが,そうでない場合には保存されることが多い. 顎骨骨折の治療には観血的整復固定術と非観血的整復固定術があるが,乳歯外傷を伴う顎骨骨折の治療の際には,顎骨内の後継永久歯歯胚への影響や顎骨の成長を考慮し,非観血的に対応されることがほとんどである.非観血的整復固定術では整復困難な症例に対してのみ,まれに顎骨骨折に対してプレート固定などの観血的整復固定術が行われるが,歯胚を傷害しない位置でのスクリュー固定や,顎骨成長抑制を防ぐためにプレート固定期間を短縮するなどの配慮が必要になる. 顎骨骨折治療の際,外傷を受けた乳歯に対しては,経過観察あるいは整復固定が行われるが,2歳以下では,乳歯に依存する固定は困難であり,徒手整復による歯列の連続性の回復のみがなされ,歯を利用した固定は行われないことが多い.2~6歳では,乳歯を利用した線副子などの固定が可能となる.7歳以降では,乳歯の歯根吸収が始まっているため,線副子ではなく床副子などの固定が必要となることもある. 1歳8か月の男児.B舌側転位,下顎骨骨折(神鋼加古川病院症例)(図①~⑥):自転車の補助台に乗せていた際に自転車が横転し顔面を強打して受傷した.画像診断後,局所麻酔下に徒手整復を行って歯列の連続性を回復し,弾力包帯にて固定した.Bは軽度の舌側転位を認めたが動揺はなく,経過観察とした.その後,Bの軽度舌側転位は残存しているが,経過良好である.

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