乳歯列期における外傷歯の診断と治療
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094Ⅳ乳歯外傷の後継永久歯への影響②Ⅳ‐5病理組織学的立場から 乳歯が脱臼や陥入など外傷を受けた場合,しばしば後継永久歯歯胚を損傷していることがある.しかし,歯胚は顎骨内にあり,損傷の状況について詳細に把握することは困難な面がある.乳歯外傷による永久歯歯胚の外傷的変化や予後については,Andreasenらが多数の臨床的・基礎的研究に基づいて10項目にまとめている. すなわち,①エナメル質の変色(白濁~黄褐色)②エナメル質の環状の減形成を伴う変色③歯冠の湾曲④歯牙腫様の形態異常⑤複数の歯根形成⑥口腔前庭側への歯根の屈曲⑦側方への歯根屈曲,湾曲⑧歯根の部分的ないし完全な発育停止⑨永久歯歯胚の壊死⑩萌出障害など種々の障害が挙げられている. 実験病理学的研究においても,歯胚外傷の予後には類似の外傷性変化が多数報告されている. 乳歯外傷の時期は1~3歳が多いが,外傷の時期が異なれば後継永久歯歯胚の発育状態も異なることから,外傷歯(歯胚)には病理組織学的に特徴的障害が惹起される.発育段階の異なる歯胚の外傷実験では特徴的な病理組織学的変化(基本病変)が挙げられている.1.硬組織形成前の歯胚の外傷による基本病変(図①)☆エナメル質では,外力が直接加わった部は内エナメル上皮(エナメル芽細胞への分化)が障害され,その領域に限局してエナメル基質形成障害が発現し,著しいエナメル質の実質欠損(エナメル質形成不全)が惹起される.外力が直接加わらなかった領域への影響はほとんどみられない.☆象牙質では,外力が加わった領域は歯乳頭および前象牙芽細胞が障害され,はじめは細胞封入を伴う不規則象牙質を形成するが,やがて象牙芽細胞が再生し,規則的な象牙質を形成するようになる.☆歯冠部(歯胚)の一部が障害された場合は萌出障害には至らない.この時期に歯胚が広範囲に障害されれば,予後に硬組織形成障害は著しいものとなる.

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