咬合再構成 その理論と臨床
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14PartⅠ:最新の咬合理論と臨床に組み入れた点では評価に値する.現時点では,関節円板の形態と挙動はMRIによる撮影でのみ見ることができる.原則2.前歯のアンテリア・カップリング 前歯の咬合状態は咬合の診断と治療を行う際のキーである.臼歯が中心位咬合するとき,上下顎前歯は咬合接触しないで,わずかなスペース(約10~20μ)を保って対向する.これをアンテリア・カップリング(Anterior Coupling)と呼んでいる(図4a,b)2. 前歯は下顎の閉口をストップする機能を有していない.臼歯咬合面が咬耗,あるいは臼歯が欠損して咬合高径が減少すると,前歯は咬耗するか,または下顎前歯による突き上げで上顎前歯が唇側移動(フレアリング)してしまう.つまり,臼歯の中心位咬合が崩壊してバーティカル・ストップが失われると,前歯のアンテリア・カップリングも損なわれることになる(図4c,d). 同様に,臼歯部欠損の遊離端パーシャル・デンチャーの症例では,10年以上の経過観察の結果,床の沈下や咬合面の摩耗によって咬合高径が減少し,前歯部,とくに上顎前歯のフレアリング,あるいは下顎前歯切縁の摩耗(咬耗)を生じることはよく知られている1.さらに,フルデンチャーでは上顎前歯欠損部にフラビーガムをしばしば観察するが,これも咬合高径の減少によってアンテリア・カップリングが損なわれた結果,上顎デンチャーが突き上げられて前歯欠損部の歯槽骨吸収が進行したためであろう. 一方,上下顎前歯が適正にアンテリア・カップリングしていれば,閉口位から前方または側方に下顎がわずかに移動すると上下顎前歯は咬合接触し,下顎を下方へガイドするよう筋肉に指令する.その結果.前歯のガイド(アンテリア・ガイダンス)による臼歯の離開(ディスクルージョン)が可能になる. このことからも,前歯の適切なアンテリア・カップリング無くしては,前歯による臼歯の離開(アンテリア・ディスクルージョン)は困難なことが理解できよう.前歯の開咬やアングルⅡ級1類の不正咬合歯列ではアンテリア・カップリングが適正でないため,ディスクルージョンの機能が欠如している.したがって,咬合の安定を維持しにくい咬合状態といえる.原則3.アンテリア・ディスクルージョン 原則1と原則2を達成することで,中心位での上下顎歯の咬合(咬頭嵌合位)が確立される.つづいて,原則3.アンテリア・ディスクルージョンを達成する.咬頭嵌合位から下顎が偏心運動するやいなや,上下顎前歯が咬合図4a,b a:アンテリア・カップリング.咬頭嵌合位で上下顎前歯は咬合接触しない.b:上下顎前歯は10~20μのスペース(ストリップス1~2枚分)を保って対咬する.図4c アンテリア・カップリングの欠如のため,下顎前歯からの突き上げによる根尖部違和感(黒矢印)を訴えていた症例.図4d アンテリア・カップリングの欠如の兆候.バーティカル・ディメンジョンの低下にともなう,下顎前歯による上顎前歯の突き上げ(黄矢印).acbd前歯のアンテリア・カップリング

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