咬合再構成 その理論と臨床
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15CHAPTER 1 日常臨床のためのオクルージョン 咬合治療の基本原則接触して下顎を下方へ誘導し,上下顎臼歯が離開する現象をアンテリア・ディスクルージョン(Anterior Disclu-sion)と呼んでいる5. 下顎の偏心運動は主に側頭筋,外側翼突筋上腹と下腹の協同作業で達成される.作業側では側頭筋と外側翼突筋上腹が顆頭―円板アセンブリーを下顎窩内の安定した位置に引きつけ,非作業側では外側翼突筋下腹が顆頭―円板アセンブリーを前下内方へ移動させるが,このとき関節隆起の形態に沿って顆頭を牽引するのは側頭筋と外側翼突筋上腹である.以上の筋活動の結果,下顎の偏心運動が可能になる(図5a~h). こうした筋肉の生理的な機能活動と協調して前歯が下顎をガイドすることで,最小限のストレスで臼歯が離開できる.つまり,最小限の筋活動でアンテリア・ディスクルージョンを達成できる.下顎はⅢ級のテコの力学的原理で機能している.顎関節部が支点,そして咀嚼筋が力点で,歯が作用点になる.このテコは臼歯部で大きな力が働き,前歯部では小さな力しか発揮できない力学的構造を形成している.さらに,舌骨筋群を含む咀嚼筋群のほとんどは下顎骨オトガイ隆起より後方に位置しているため,それよりも前方に存在する犬歯と切歯は過大な応力から力学的,生理学的に保護されているとも言える. 下顎が閉口するとき,上下顎歯は閉口路上で咬合干渉することなく咬頭嵌合位へ達する.また,開口するときも上下顎歯は開口路上で咬合干渉せずに開口する.咀嚼や嚥下などの機能運動中にはこのメカニズムが働いている.図5a,b 審美改善と咬合の安定を目的とした矯正治療(動的治療).最初に臼歯の中心位咬合とアンテリア・カップリングを確立.つぎにアンテリア・ディスクルージョンを確立.図5c,d 矯正治療完了.中心位で臼歯は中心位咬合,前歯はアンテリア・カップリングして咬頭嵌合する.図5g,h 下顎の偏心運動は主に側頭筋,外側翼突筋上腹と下腹の協同作業で達成される(g:矢状面断h:水平面断). 顆頭‐円板アッセンブリ外聴道下腹上腹顆頭外側翼突筋図5e,f アンテリア・ディスクルージョン.偏心運動中,下顎は下降するため上下顎臼歯は接触しない.下顎が下降する角度と方向は,筋活動と前歯のガイダンスにより規制される.egfhacbdアンテリア・ディスクルージョン

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