インプラント治療の根拠とその実践
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米国歯科大学院同窓会(JSAPD)会長村上 斎Itsuki Murakamiソフィアインプラントセンター・愛知県た視点から議論し、どのような条件が満たされれば、保存あるいは抜歯が正当化しうるかについて、多角的に検討を加えました。そして、さらには欠損が生じてしまった歯列を従来法で補綴することと、インプラントを用いて行うことの意義について、患者にとってのベネフィット・リスクの観点からも考察しました。この2013年の公開セミナーは、参加した方々からその内容について高い評価を受け、今回クインテッセンス出版社からセミナーの内容をもとにインプラント治療をテーマとした書籍をJSAPDとしてまとめるようお誘いをいただきました。早速、役員会で検討を始め、2012年、2013年の公開セミナーでとりあげた内容はもとより、この2回のセミナーではカバーしきれなかったインプラント患者の長期的管理の話題も、広義(経年的変化への対応)ならびに狭義(天然歯ならびにインプラント周囲組織のメインテナンス)の両面からとりあげ、この内容を追加した書籍を企画することとなりました。その後、さらに内容についての議論を積み重ね、インプラント治療を選択することの現時点での根拠を示すとともに、その根拠に基づいた治療を実践するために必要な考え方を、さまざまな分野の専門医であるJSAPD会員が実際に治療したさまざまな症例を通じて示すことといたしました。この書籍のタイトルは、このような経緯で決まりました。この書籍のタイトルの一部である「根拠」という言葉には、二つの意味が含まれています。一つはscientific evidenceに対応する「科学的根拠」であり、もう一つはclinical rationaleに対応する「治療を実践するうえでの正当な理由」です。どちらが欠けても、歯科治療の一つの選択肢であるインプラント治療を実際に選択し、患者に用いることは許されません。本書ではこの二つの意味をもつ「根拠」の具体的な中身を紹介したうえで、根拠にもとづいた「実践」について、実際の症例を通じてわかりやすく解説しました。本書では、まず天然歯を保存するか、抜歯するかの基準について、歯内療法専門医、歯周病専門医、補綴専門医がそれぞれの専門的見地から根拠を示し、次いで現存する科学的文献のほとんどを渉猟したうえで、インプラントの治療計画を立案するための根拠を示しています。その後に従来補綴での治療例も紹介しながら、インプラント補綴をさまざまな状況で行った症例を供覧し、日常的に臨床で遭遇する異なった状況に応用できる考え方と治療技術を提示しています。また、歯科治療にとって重要なテーマである顎位と咬合についても、インプラント治療という文脈の中でどう考えればいいのかを提示しました。最後に、インプラント周囲組織と上部構造のメインテナンスのために必要不可欠な基礎知識、そして20年以上の長期にわたってインプラント患者を管理し続けている症例を通じて得られた実践的なノウハウを紹介しています。本書が皆さまの臨床の成果に結びつき、ひいてはわが国におけるインプラント治療の健全な発展に寄与することを、願ってやみません。iii

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