インプラント治療の根拠とその実践
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米国歯周病学会(AAP)によると歯周治療のゴールは「健康、快適さ、審美性、機能性」を得るために天然歯、インプラント、歯周組織、インプラント周囲組織を守り、改善し、維持することとある1。長期的にこのゴールを達成するためには、歯周炎に罹患した歯の保存の可否を確実に判断することが重要となる。それについては、過去、歯周治療学の歴史の中でさまざまな方法が研究されてきたが、いまだ確定的な診断方法は確立されていない。だが、これはどれほど歯周治療研究が進歩し、新しい器具や材料、方法が開発されても元来、不可能な性質のものであるかも知れない。なぜなら、歯周炎は単なる歯周病原細菌の感染によるものではなく、複雑な要因が絡んで進行する疾患であり、それぞれの要因がどの程度、進行の過程で関与しているかを知ることはきわめて困難だからである(表1)。さらに近代のインプラントの登場は、抜歯基準に大きな変化をもたらし、より複雑化させている。しかし、われわれは実際の日常臨床の中で、歯の保存の可否について難しい判断を下さざるを得ないことが多いのも事実である。本項では、多くの歯科医師が悩むであろう抜歯基準について、歯周病学的見地から、一般開業医の立場で臨床を行っている筆者の考えを述べてみたいと思う。一般開業医の立場からの見解 -予後分類と患者利益- 谷口 崇拓 Takahiro Taniguchi谷口歯科医院・長野県B-1 歯周病専門医が考える保存と抜歯の基準①表1 予後を左右する多様な因子(参考文献2より引用改変)個々の歯の予後全体的な予後● 骨喪失%● プロービングポケットデプス (PPD)● 骨欠損の分布や形態● 根分岐部病変の存在と重症 度● 動揺度● 歯冠歯根比● 歯根形態● 歯髄の有無● う蝕● 歯の位置と咬合関係● 戦略的価値● 術者の知識と技量● 年齢● 全身的な健康状態● 個々の歯の予後● 病変の進行度● 患者の協力度● 経済的配慮● 歯科医師の知識と能力● 病因● 口腔習癖1)抜歯の意思決定は、最終的には歯科医師の判断に左右されるまず抜歯基準を考える前に、「抜歯か、保存か」の最終決定は誰が行うのだろうか? 多くの歯科医師がたいていは「患者」と答えるだろう。だが、この答えを鵜呑みにしてはならない。患者が意思決定するには、それに足る十分な情報が必要だが、その内容や量は、情報提供者である歯科医師ごとに異なるという現実があるからである。実際、患者の疑問、すなわち、「あとどのくらいもつのか」「放っておくとどうなるのか」「抜いた後はどうなるのか」などへの回答は、当然術者によって異なるはずである。ある歯科医師が「あと数年しかもたない」と言っても、他の歯科医師は「あと10年はもちます」と言うように……。となると、当然ながら抜歯の意思決定は、表向きは「患者の採択」であっても、それは歯科医師個々の最終判断によってしまうのが現実である。1. 抜歯の最終決定は誰が行うのか?23

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