新 矯正歯科治療論
3/6

20 PNFとは「Proprioceptive Neuromuscular Facili­ta­tion」の略で,日本では「固有受容性神経筋促通法」と称される.これは,体の至るところに存在する感覚受容器を刺激すること(=促進要素を与える)によって,神経や筋肉の反応やはたらきを促進し運動を容易にさせる,リハビリテーションの現場等で使われる理学的療法手技である(表3).1950年ごろの米国で,医師・神経生理学者のHerman Kabatと理学療法士のMargaret Knott,Dorothy Vossが中心となり作られたこの手技は,現在世界中の医療現場で活用されている. ただこれは単なるテクニックというより,「すべての人間には本質的に不可能なことがあると同時に,未知の潜在的な能力が備わっている」という考えを基盤としている1つの治療哲学である27.PNFとは矯正歯科治療の次世代を切り拓くためのメソッド 5矯正歯科治療におけるPNFの活用表3 PNFの変遷※筆者は1990年から2年間,日本におけるPNFの先駆者である柳澤 健氏(首都大学東京名誉教授)に当院の患者を担当していただくと同時に,基本的なPNFの手技を直接ご指導いただいた.また1992年には氏主催のPNF公式コースを受講している.1940年代ポリオによって障害を受けた患者の治療に使われていたElizabeth Kenny による「Kenny method」や生理学者Charles Sherringtonらの「神経筋促通・抑制法モデル」とその業績を基礎とした「神経生理学的原理」等が実施・継承されていた.Kabatは神経生理学的原理が麻痺患者の治療に活用できると確信し, Knottとともに神経麻痺患者に対する治療の研究を開始した.1948年Kabatがワシントンからバレホー(Vallejo, California)に移り,研究所を創立.そこでKnottらとPNFの理論とテクニックを発展させる.1952年Vossが研究チームに加わる.1956年KnottとVossにより最初のPNFの書籍『Proprioceptive neuromuscular facilitation:patterns and techniques』が出版される.その後1951年にPNFを教授するコースがVallejoで開催されて以降,KnottとVossは米国のみならず海外でもPNFの指導を行った.1990年に理学療法士Susan Adlerらの貢献で国際PNF協会(International PNF Association, IPNFA)が設立された.IPNFAはKnottとVossのPNFコースを継承し,現在でも多くの国で開催されている.顔面へのPNFの施術.

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です