インプラントの長期予後確立に向けた治療戦略
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シンポジウム2インプラント治療38年を振り返って─1ピースインプラントの臨床的考察について─糸瀬正通 Masamichi Itose (福岡県開業)1970年 神奈川歯科大学卒業    同大学付属病院保存科勤務1973年 糸瀬歯科医院勤務1974年 福岡市にて開業奥羽大学歯学部客員教授、台北医学院臨床教授、近未来オステオインプラント学会会長はじめに 筆者は、インプラント治療を導入する前までは、遊離端欠損において部分床義歯を主体とする補綴治療を行っていた。部分床義歯装着後、数年経過すると鈎歯となる天然歯や垂直的咬合高径低下による残存天然歯に対する負担過重により、抜歯を余儀なくさせられる症例を数多く経験していた。 残存天然歯の延命効果を図るためには、確実な臼歯部のセントリックストップやアンテリアガイダンスを得ることが咬合安定となると考え、筆者は38年前に、バイオセラム・サファイア・インプラント(以下、バイオセラムインプラント)の臨床応用を始めた。当時、国内のインプラント事情は、ブレードタイプインプラント、骨膜下インプラントが主流で、限られた臨床医の間でインプラント治療が施術されていた。部分床義歯からバイオセラムインプラントによる固定性欠損補綴を行うことにより、アンテリアガイダンス獲得のための臼歯部セントリックストップ確立が容易になり、固定性上部構造を口腔内に装着することで、患者の機能性、審美性、心理的満足度を想像以上に得ることができた。オッセオインテグレーションタイプのインプラントへの移行と骨造成術の導入 約10年以上、筆者はバイオセラムインプラントを臨床応用していたが、1980年代後半になると、国際的に種々のオッセオインテグレーションタイプのインプラントが開発され、日本でもITIインプラントシステム(現ストローマンインプラントシステム)、IMZツインプラスシステム、ブローネマルクシステムなどが輸入された。 1990年代に入ると、国内でインプラント治療が世間に普及した。筆者も1991年、天然歯と連結しなければならなかったバイオセラムインプラントからオッセオインテグレーションタイプのPOIシステムへ移行した。最初は、機能性回復を目的とした臼歯部へのインプラント植立が主で、歯肉縁上マージンで上部構造を装着していた。 1990年代後半には、インプラントの表面性状、形態、上部構造の種々の研究開発がなされ、当初、臼歯部への対応が多かったが、徐々に前歯部へもインプラント植立を行うようになった。 2000年代に入ると、抜歯窩保存術、条件のよい症例においては、抜歯後即時埋入、即時荷重などの術式により、適応症例が拡大していった。それらに対しては、骨補填材料の開発や非吸収性膜によるGBR成功などが後押しした。さらに、上顎洞底挙上術(SFE)や垂直的顎堤増大術(VRA)を臨床導入してきた。 また、10年前にCBCTを導入して、三次元的診査診断を適正に行うことで、治療の難易度、危険性、予後観察などが確実に行えるようになった(症例1)。たとえば、上顎洞底挙上において、歯槽頂からアプローチするオステオトームテクニックを行う場合、被曝線量や感染リスクといった問題があるが、前歯部の抜歯後即時埋入におけるドリリング時の埋入角度、深度確認を術中のCBCT撮影で確認することで、確実なインプラント埋入が可能となった(症例2)。 また、5年前からインプラント埋入時のイニシャルドリリングにピエゾを使用しており、血管や骨に対して低38

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