インプラントの長期予後確立に向けた治療戦略
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金成雅彦欠損歯列におけるインプラント治療と矯正治療の組み立て─タイミングと治療意義─絶対的固定源に対する考え方と適応症 矯正力が歯の動く閾値を超える力であれば、周囲骨には破骨細胞と骨芽細胞が持続的に出現し、骨がリモデリングすると同時に歯は動いていく。つまり、固定源を歯に求めた場合、前述の条件下であれば固定源に設定された歯も相反的固定源として動いていくことになる。しかし、固定源を歯槽骨や顎骨に求めた場合、基本的に移動しないので絶対的固定源とされる。 ここで絶対的固定源としての矯正用のインプラント(Temporary Anchorage Device;TAD)と補綴用インプラント(以下、インプラント)の適応症について考えてみたい。それぞれの適応症を表2に示す。TADを固定源にして先に歯を移動させてからインプラントを埋入する方法と、術前に矯正治療後の補綴位置を予想して補綴主導型インプラントを埋入し、それを固定源にして歯を移動させる方法とがある。 前者は、水平的な顎位の大きな変更をする場合、それにともない三次元的な矯正後の歯列の位置を予見できない場合に用いる。しかし、患者の主訴が上顎前歯部の前突感などであれば早期に矯正治療を開始でき、患者のQOLの改善にいち早く対処できることになる。後者は、大臼歯部が欠損している患者の咀嚼能力の向上や、総合的な治療の組み立て上、安定した垂直的な咬合支持が早期に必要な場合や、咬合高径が低い状態を大きく改善させる場合などに行う。また、TADとインプラントの固定源としての信頼性を比較すると、インプラントは非常に高い信頼性が得られるため、安定した強固な固定源が必要な場合にも適応とされる。骨に固定源を求めたさまざまなシステムについての成功率を挙げてみると、TADは61.0~100%の成功率であるのに対し、補綴用インプラントは100%の成功率であり、固定源としては非常に信頼できるシステムとされている(表3、4)。インプラントを固定源として活用した症例 患者は67歳の女性で、主訴は下顎の義歯が合わなくて長年困っているとのこと。口腔内においては下顎左右側の臼歯部欠損、それによる上顎左右臼歯部の挺出、下顎前歯部の叢生、正中の不一致などが確認できる(図1)。顔貌所見としては、上下口唇部がやや突出したコンベックスタイプであり、鼻唇角が65°(平均値は90°)および下顔面高がやや小さくなっていることにより咬合高径の低下が確認できる。X線上においては、歯周病の大きな問題はないが、5が欠損したことにより6が大きく近心傾斜している(図2)。図1-a~f 患者は67歳の女性。主訴は下顎の義歯が合わなくて長年困っている。下顎左右側の臼歯部欠損による上顎左右臼歯部の挺出、上下口唇部がやや突出したコンベックスタイプであり、下顔面高がやや小さくなっていることにより咬合高径の低下が確認できる。abcdef121

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