QDI 5月
5/8

123─Vol.20,No.3,2013467萩原芳幸(日本大学歯学部特殊診療部歯科インプラント科・科長)補綴学的なサインで見抜くインプラントの重篤合併症キーワード:セメント固定、チッピング、脱離、コーピングデザイン 一般的に発生頻度の高い補綴学的(材料学的)合併症は、生体がわれわれ歯科医師に「何かを伝えようとしている」、あるいは「何かに気が付いてほしい」というサインと捉えるべきである。インプラント治療の安定した長期的予後が重要視されるなか、可及的に重篤な合併症あるいは不可逆的な生物学的合併症へ移行させないことが求められている。われわれはこの「何か」を見逃さず、正しく判断して適切な予防処置を講じることが、初期補綴学的合併症から重篤な合併症への負の連鎖を止めることになる。 補綴学的なインプラント(上部構造を含む)の問題事象は多岐にわたり、すべてが重篤な合併症に関連するわけではない。しかし、日常臨床において補綴装置に生じる小さな「サイン」を見逃さず、つねにインプラントの安定性に関連づける習慣を持つことは、各自の治療成績の向上、ひいてはインプラント治療への信頼性の向上にも貢献する。 そこで本連載では、インプラントの重篤な合併症へのサインの見極め方、対処法を6回にわたって解説する。企画趣旨第1回�インプラント機能開始後に見られる合併症の概要第2回�固定性補綴装置に関連する合併症①:スクリュー固定上部構造の緩みに関する合併症第3回�固定性補綴装置に関連する合併症②:セメント固定上部構造の脱離、前装部のチッピング第4回�固定性補綴装置に関連する合併症③:アバットメント、フレームワーク、インプラント体の破損・破折第5回�可撤性補綴装置に関連する合併症第6回�力のコントロールに不可欠な咬合調整方法および総括第3回固定性補綴装置に関連する合併症②─セメント固定上部構造の脱離、 前装部のチッピング─はじめに 本稿では、固定性補綴装置に多く見られる①上部構造の脱離(セメント固定の場合)、②前装部(陶材や前装用コンポジット)のチッピング・破折について考察する。これらの合併症は日常臨床でも数多く遭遇するが、生物学的な合併症とは異なり比較的軽視されがちである。その理由の一つは、これらの事象がインプラント周囲炎や骨結合の喪失、インプラント破折などの重篤かつ不可逆的な合併症に影響を与えないと思われがちだからである。 しかし、前回考察したスクリューの緩みに関連する合併症と同様に、その発生原因や臨床的な状況を考えた場合、適合精度と咬合の要因が深く関与している。これらは、アバットメントやインプラント体に直接的に為害力とし

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です