QDI 2016年7月
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はじめに インプラントの埋入早期の併発症の一つとして、埋入窩を形成する際の摩擦熱による骨火傷が挙げられる。骨火傷は時として骨壊死を引き起こし、オッセオインテグレーションに悪影響を及ぼすことが知られている。しかしながら、近年このトラブルを実際に経験している術者は少なく、原因や予防策の検証が十分になされていなかった。インプラントの表面性状が進化し、より短いものが使用されるようになってきたことがその理由だろう。可及的に長いインプラントが推奨されていたマシーンドサーフェスの時代には、埋入窩とドリルへの注水不足による火傷が生じやすかったのである。 ところが、昨今この骨火傷がクローズアップされつつある。それは、ガイデッドサージェリーの普及が一つの要因と考えられる。ガイデッドサージェリーに用いるサージカルガイドは、従来の外科用ステントと比較して、歯や粘膜あるいは顎骨を広範囲に被覆するうえに、ドリリングはパッシブに適合するドリルホールを通して行われる。そのため外部注水の場合、冷却水が十分に埋入窩形成部に行き渡らず、その結果として骨火傷を引き起こすことが多くなるといわれている。 そこで本稿では、骨火傷の特徴と、それらに影響を与える因子について、筆者らの研究を交えながら解説するとともに、臨床例を供覧し、骨火傷に対する予防策を考察したい。インプラント埋入窩形成時における骨火傷の特徴 骨火傷を引き起こす条件については、Erikssonら1)が述べている47℃、1分間以上の熱影響は骨に不可逆的なダメージを与えるという研究が一般的に知られている。その他にもErikssonらとは異なる基準で骨火傷の条件を評価している研究や、オッセオインテグレーションに対する影響を報告しているものもあるが、その数はきわめて少なく、臨床的な条件は明らかになっていないに等しい2、3)(表1)。 埋入早期におけるトラブルは、骨火傷の他に感染、過度の骨圧迫、骨量や骨密度の問題、初期固定の不足、免荷期間における微小動揺など、さまざまな要因が考えられるため、原因を特定できない場合がある。そのため骨火傷に関する臨床的な報告は少なく、数編のケースレポートが存在するだけである4~6)。 そのなかで、骨火傷の特徴的な症状の1つとして挙げられるのが、埋入後の持続的な疼痛である。インプラント埋入後の疼痛は、骨造成などによる付加的な侵襲がなければ、鎮痛剤により軽減され数日で収束することが多い。しかし、骨火傷による疼痛は1週間以上持続し、鎮痛剤を使用してもあまり軽減されない傾向がある。 さらに、骨火傷の症状と考えられているのは、術後2~4週で認められるインプラント周囲のX線透過像である。とくにインプラントの先端部に根尖病変のような透過像が現れることが多く、これはImplant Periapical Lesionインプラント併発症インプラント埋入窩形成時の骨火傷についての考察山羽 徹大阪府開業 医療法人 山羽歯科医院連絡先:〒573-1144 大阪府枚方市牧野本町2-22-22450537 ─Vol.23, No.4, 2016

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