QDI 2016年7月
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Communication for Implant Dentistryはじめに いつの時代にも、患者のクレームには、「説明不足」「コミュニケーション不足」が挙がる。医療者側もトラブルに発展しないようにと配慮しながら説明するものの、後になって患者が正しく理解していなかったことに気づく。インプラント治療などにおいてもしばしば生じるこうしたハプニングは、なぜ解消されないのだろうか。 行動科学的観点からみると、患者の行動特性ごとに、理解の仕方には違いがある。たとえば、ある歯科医師が複数の患者に同じ内容を説明したとしよう。ある患者は、歯科医師の説明内容をポイント的にとらえて「理解した」と言う。また別の患者は、歯科医師の説明内容を大まかに感覚的にとらえて「理解した」と言う。さらにある患者は、歯科医師の説明内容を一度頭の中で整理し、自分の言葉に置き換えて解釈して「理解した」と言う。さらに別の患者は、歯科医師の説明内容の一部始終、些細な言動にまでも意識が向き、細かい内容も含め、すべてを把握するまでは「理解した」とは言わない。そもそも患者側の理解の仕方は一律ではなく、認識や感じ方、とらえ方が異なるため、それぞれ、患者に応じて理解した状態も変わってくるのである。 一方、歯科医師側からすれば、患者が「理解した」と意思表示をしたのだから、こちらの説明は十分に患者に伝わっており、理解されているのだと解釈する。こうした両者間の認識の相違、コミュニケーションの不一致から、後になってトラブルに発展することも想像できるかと思う。こういった現象は、患者に問題があるわけでもなく、歯科医師に問題があるわけでもない。対人関係におけるコミュニケーションは、お互いの認識に相違が生じるものであることを前提に、起こりうるトラブルを回避するためにどうしたら良いかを考えていくことが望まれる。 本稿では、トラブル対策に向けた歯科医療コミュニケーションに関して、心理学・行動科学的観点から患者を理解し、患者の各特性に応じた適切な説明法を紹介する。それは、コミュニケーショントラブルのリスクマネジメントのみならず、患者とのラポール・モチベーション向上につながると言っても過言ではない。インプラント治療を含めた明日からの臨床に、ぜひ役立てていただければ幸いである。特性別にみた患者心理を探る 心理学者ウィリアム・マーストンは、人の何気ない行動は、その人の「欲求」「恐れ」「動機」から形成されていることを明らかにした1)。これに従えば、患者の言動から、より正確にその心理を理解することが可能となる。マーストンが示したツールであるPPS(Personal Prole System)に基づき、臨床における患者の行動特性別にみた効果的な対応を、具体的に解説していきたい。 読者の方々は、日常の臨床のなかで、治療説明をする際、表1に挙げたような印象の患者に遭遇したことはないだろうか。 歯科医療従事者は、患者の言動からストレスを生じるトラブル対策・インフォームドコンセントに役立つ!患者の特性別にみた最適な説明法水木さとみ Satomi Mizuki (医学博士/心理カウンセラー/歯科衛生士/株式会社エム・エイチ・アイ代表取締役/医療法人 社団 信和会 ミズキデンタルオフィス インプラントセンター横浜多摩大学大学院(MBA課程)客員教授)670559 ─Vol.23, No.4, 2016

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