QDI 2016年9月
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予後10年以上の長期インプラント症例を再評価する  小川勝久予後10年以上の長期インプラント症例を再評価する矯正的挺出技法を応用したインプラントの予後小川勝久 東京都開業:小川歯科・天王洲インプラントセンター神奈川歯科大学口腔機能修復学講座客員教授はじめに 歯を喪失すると周辺歯槽骨は病理学的に吸収し、有歯の状態に比べ50%も経時的に吸収し、義歯の加圧下ではさらに進行すると言われている1)。特に、上顎前歯部唇側骨は歯根膜由来の薄い層板骨(0.6mm)であり2)、感染や抜歯時の外科的侵襲時には大きく唇側に吸収する。そのため吸収した周囲組織は、歯間乳頭の喪失を含め、審美性や補綴物との調和を妨げることにもなる。インプラント治療においても、硬・軟組織の吸収や喪失は、適切な位置や方向へのインプラント埋入の妨げになり、結果として難度の高い硬・軟組織造成術を強いられる。 このような背景から、歯根膜由来の薄い層板骨や軟組織を温存することを目的として、抜歯予定歯をあらかじめ矯正的技法を用いて牽引する「矯正的挺出技法」が有効とされている。今回、この技法を用いたインプラント治療の予後10以上経過した症例を通じて、矯正的挺出技法の有効性について検証していきたい。本症例における治療の経過初診インプラント埋入術後3年術後13年2001年5月1999年5月2006年3月2005年4月2016年5月2016年5月歯周病にともなう動揺を主訴に来院。保存不可能であった1を抜歯してインプラントを埋入するにあたり、周囲骨の温存や軟組織増大を図り、矯正的挺出を行う。6ヵ月ごとのメインテナンスを続けている。一部歯周病が見られるが、13年前同様の口腔内を保っている。上顎前歯部の違和感と動揺を主訴に来院。保存不可能であった211を抜歯してインプラントを埋入するにあたり、周囲骨の温存や軟組織増大を図り、矯正的挺出を行う。術後5年で、一部唇側のインプラント周囲軟組織に若干の吸収が現れた。術後15年現在、喫煙や生活習慣の影響と思われる軟組織の変化が見られる。初診インプラント埋入術後5年術後15年650721 ─Vol.23, No.5, 2016

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