QDI 2016年9月
7/8

連 載 series Dr.寺西が徹底解説!無歯顎インプラント治療に生かせる総義歯補綴臨床の基礎知識総義歯補綴学を基礎として無歯顎インプラント治療を考える寺西邦彦東京都開業:寺西歯科医院日本顎咬合学会会員(指導医)/S.J.C.D.International 常任理事/スタディーグループ赤坂会顧問/Academy of Osseointegration 会員/OSI 東京主幹第1回1はじめに 1980年代にわが国にオッセオインテグレイテッド・インプラント(以下、インプラント)が紹介され、臨床応用されるまでは、無歯顎症例における補綴オプションは唯一、総義歯補綴のみであった。しかしながら、インプラントが臨床に導入されてからは、患者のQOL向上を考慮した場合、無歯顎インプラント補綴の効果はきわめて高いと考えられ、またインプラントが広く一般的に周知された現在、無歯顎症例における補綴オプションの第一選択になったと言っても過言ではないだろう。 総義歯補綴臨床と無歯顎インプラント補綴臨床は一見、大きく異なった臨床と思えるかもしれない。たしかに、方法論的には異なったものといえるが、対象が無歯顎患者である点は同様であり、いずれにおいても無歯顎補綴臨床の目的を正しく理解し、達成しなければならない。 そこで本連載においては、総義歯補綴学の基礎に立脚し1、2)、無歯顎インプラント補綴治療に関して解説を加えていきたいと思う。2症例供覧1─過去の問題症例より─ はじめに、筆者が経験した問題症を紹介していこう(図1~3)。これは筆者がインプラントを臨床に導入して約6年目、1993年の症例である。患者は初診時66歳の女性で、上顎無歯顎に対し、左右臼歯部にそれぞれ3本のブローネマルク・インプラントを埋入し、前歯部はポンティックとした(図1)。最終上部構造装着時までは上顎にはプロビジョナルデンチャーを装着しており、患者自身も審美的に満足していた。最終上部構造装着後、咀嚼機能回復に関してはたいへん満足していたが、「上口唇にしわが増えた」とクレームがついたのである(図2)。そこで急遽、上顎前歯部唇面に可撤性の床用レジンにより製作したラビアル・プレートを装着して適正なリップ・サポートを回復し、患者の満足が得られた(図3)。 本来リップ・サポートとは、上口唇の紅唇部分は前歯歯冠部の位置により支えられ、上口唇の鼻下部は歯槽部により支えられているもので、総義歯においては義歯床唇面によりサポートされているものである(図4)。このことは総義歯補綴においては常識的なことであるが、無歯顎症例であるにもかかわらず、インプラント症例ということで筆者自身、総義歯臨床とは別物と錯覚してしまい、このような失敗をおかしてしまったのである。 やはり、先人たちが築き上げた総76Quintessence DENTAL Implantology─ 0732

元のページ 

page 7

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です