QDI 2016年9月
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インプラントのためのインパクトの高い論文評価連載 インプラントのためのインパクトの高い論文評価 第10回のテーマはPapillaである。Papilla(歯間乳頭)とは、歯の両隣接部の接触点の下方の三角形の歯肉であり、隣在する歯の歯間鼓形空隙を埋める歯肉をいう。この歯肉は歯の隣接面の幅、接触点の位置、歯間部の骨形態などにより形態が異なる1)。インプラント間の乳頭もPapillaと定義される。インプラント治療においても天然歯同様に、歯間乳頭を保存、再建することで、歯肉のバイオタイプの維持や骨吸収の予防をすることは審美的結果においても重要である。また、前歯部のインプラント埋入においてインプラント体と隣接部との距離により、歯間乳頭の存在に明らかな影響が生じることが示唆されている。一般社団法人 日本インプラント臨床研究会(CISJ:Clinical Implant Society of Japan)サイエンス委員会(芦澤 仁、田中譲治、岩野義弘、武田朋子、佐藤博俊、井汲憲治、水口稔之、笹谷和伸、若井広明)、塩田 真(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科インプラント・口腔再生医学准教授)Papillaのための重要キーワードベスト論文第10回Papilla検索キーワード1.国内外におけるPapillaの評価1)Papillaの高さに影響を与える因子 まず、インプラントは天然歯と比べて大きく異なると認識されている点がある。 Berglundhら2)は、天然歯周囲においてはコラーゲン線維が歯根面に対してほぼ垂直に走行し、セメント質内へ侵入する形態をしているためPapillaの高さも維持されやすいが、インプラント周囲では、インプラントの長軸と平行に走行し、歯根面に対して扇状に広がる形態をしているためPapillaの高さが維持されにくいものと報告している。すなわち、周囲における骨のリモデリングと周囲組織に対する血液供給の違い2)もまた、影響を与えるものと考えられる。2)Papillaの高さの評価 Salama、Garberら3)は、天然歯間におけるPapillaの高さは平均5.0mmと報告しているが、インプラント間では平均3.5mm4)と、天然歯に比べて高さの獲得、維持が困難である。そこには、天然歯周囲とインプラント周囲との組織学的相違の影響がある。3)生物学的縦横比と歯肉のバイオタイプについて 天然歯およびインプラント周囲軟組織は、生物学的に一定の比率をもって安定しているとされ、天然歯辺縁歯肉の幅と高さの比率が1:1.5(Wennströmら5))であるのに対し、インプラント周囲粘膜における幅と高さの比率は1.5:1(野澤、榎本ら6))とされる。この点からも天然歯とインプラントにおけるPapillaの高さの相違が説明できる。さらにここから、Kanら7)が提唱する歯肉のバイオタイプの違いがPapillaの高さに影響することも読み取れる。すなわち、thin バイオタイプ(歯肉厚さ1.5mm以下)に比べて、thickバイオタイプ(歯肉厚さ2.0mm以上)のほうが高い位置に歯肉ができており、隣接面においても高い位置に歯間乳頭を獲得できるとし、歯間乳頭を支えるものは隣接部における骨であり、その状態が審美的な軟組織形態を獲得するうえでもっとも重要であると考えられる。また、日本人は欧米人に比べてthinバイオタイプが多いと報告されており8)、特に注意深く治療を行う必要がある。870743 ─Vol.23, No.5, 2016

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