QDI 2017年2号
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流動性を維持して血管内を流れており、決して凝固することはないが、ある病的状態では血栓を形成して血流を途絶させ、重大な臓器障害を惹起する。血栓症発症の三大要因として、・血管壁の性状の変化・血液成分の変化・血流の変化が挙げられ、これをVirchow(ウィルヒョウ)のTriadとよぶ。 また、血栓の種類には、白色血栓と赤色血栓がある。血流の流れが早い動脈にできる動脈血栓はおもに血小板が関与し、血栓の色が白色を呈することから「白色血栓」とよばれ、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などがこれに当たる。一方、血流の流れが遅い静脈内で起る静脈血栓は、赤血球とフィブリンからなり、赤く見えるので「赤色血栓」とよばれる。これには肺塞栓、深部静脈血栓症などが含まれる。 一般的に、白色血栓が主体の動脈血栓症には抗血小板薬が、赤色血栓が主体の静脈血栓症には抗凝固薬が用いられる。ン1)では、「抜歯時には抗血栓薬の継続がのぞましい」と明記され、2010年および2015年改訂の日本有病者歯科医療学会・日本口腔外科学会・日本老年歯科医療学会から出された科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2、3)では「ワルファリンによる抗凝固療法を受けている日本人患者においては、そのコントロールがPT-INRで3.0を超えなければ適切な止血処置により止血は可能」とされている。また、近年ワルファリンと異なる抗血栓薬が次々と登場し、従来のワルファリン服用患者と同様に、抜歯などの観血的歯科治療を行ううえで注意が必要である。 そこで今回は、抗血栓薬に焦点を当て、これらの薬を服用している患者の抜歯やインプラント外科の周術期管理について述べていきたい。2抗血栓療法とは? 抗血栓療法とは、血栓症の発症を抑制する治療のことである。血液は通常、1はじめに 本邦における高齢化は世界に類をみないほどのスピードで進み、65歳以上の人口割合が20%余に達する超高齢社会を迎えている。 これにともない歯科を受診する患者においては、基礎疾患を有する、いわゆる有病者の占める割合が増加している。特に、ワルファリンやアスピリンなどの抗血栓薬を服用している患者が飛躍的に増加している。 これらの薬を服用している患者の抜歯やインプラント埋入など観血的歯科処置に際しては、異常出血や後出血のリスクがある。そのため、以前はこれらの患者の抜歯に際しては、抗血栓薬の中止が常識とされていた。 しかし、抜歯時に抗血栓薬を中止すると、血栓が形成されて脳梗塞や心筋梗塞などの合併症を起こす可能性があり、その場合はほとんどが死の転帰をたどると言われ、抗血栓薬の中止は非常識となった。日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライ抗血栓薬を服用している患者の周術期リスクマネージメント連 載series第2回患者の服用薬から学ぶ全身疾患症例のインプラント治療と周術期リスクマネージメント高橋 哲(Tetsu Takahashi)東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野106Quintessence DENTAL Implantology─ 0290

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