QDT5月
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エイジングに対応した補綴・修復のすすめはじめに 今から30~40年前、われわれは虫歯の洪水の中で立ち往生していた。「ランパントカリエス」「みそっ歯」などなど、やってもやってもやりきれない虫歯の処置に日々明け暮れ、削っては詰め、また手遅れになった虫歯の歯内療法に、そして欠損となった症例の補綴処置に悪戦苦闘していた。 過去を振り返り、現在の歯科医療の現状を鑑みるに、われわれが対象とする歯科疾患の激変にとまどうばかりである。これはわが国の歯科医師が世界一低い医療費のもとで、自己犠牲を払い必死で頑張った結果、う蝕の減少、80-20達成者4割を成しえたことは否めない事実であろう。 小児のう歯は激減し、ご高齢者の残存歯は激増し、歯周組織が健全であればあるほど残存歯に発生する咬耗、磨耗などのTooth Wearが顕著に発現する。若年者の顎骨の縮小傾向に起因する歯列不正や、しっかりとした支持骨に支えられた残存歯が多く存在することで顎関節のトラブルも多発しつつある。要は、われわれが立ち向かう歯科の疾病構造が変化したのである。 これからのわれわれが成すべきことは、歯周疾患、う蝕の予防処置、そして80-20達成者がまもなく5割を超えようとしているわが国のご高齢者へのBiocompatibility(生体調和性)に基づく対応であろう。経年的に歯は咬耗する、そして顎骨も変化する。ゆえに、単冠であれば咬耗への追従を、大規模なBridgeであれば顎骨の変化への対応も考慮した歯冠修復を考えていかなければならない。 そこで本稿では老人多歯残存時代における歯冠修復についてさまざまな観点から論じてみたい。₁「永久修復」からの訣別―ライフステージを3段階に分けた材料選択のすすめ―●「永久修復」という概念を転換すべき 2010年に、わが国の65歳以上つまり高齢者人口は23%となった。さらにそのうちの約半数は75歳以上のいわゆる後期高齢者であり、後期高齢者だけで人口の11%を占めるという超高齢社会が到来している。人生が長くなればそこにはゆっくりした老化がともなう。老化にはいろいろな考え方があるが、たとえば「年をとるにつれて生理機能が衰えること」「時間の経過とともに不可逆的に進行する形態的・生理的な衰退現象」「劣化」とされる。老化と聞くと齢を重ねてからというイメージがあるが、実際にはそれは成人したころから始まる長い道のりである。 「寿命が長くなっても、晩年は寝たきり」ではつまらない。重要なのは健康寿命である。口腔周囲に関しても老化・変化は避けられないが、口腔の健康寿命を維持するのには、時には不可逆的変化に対抗するかのような柔軟性と、それでも起こる不可逆的変化が生体に調和していることが重要だと考える。 今まで、われわれ歯科医師の多くは、顎骨は変化しないとの前提で修復処置を行ってきた感がある。成長期の子供にワンピースのフルブリッジを装着するようなケースはありえないが、成人後の加齢にともなう顎骨の変化や、開閉口にともなう下顎骨のたわみ(柔軟性)、歯根膜の被圧縮性(柔軟性)などを考慮した上で

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