QDT2015年9月
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咬合面が有する機能性およびそれを考慮した上での咬合面形態外観の在り方とは?咬合面形態の特徴(構築計画)ての患者にみられる下顎骨およびその骨筋系システムをテーマとするBoisseree W, Schupp W1)を除き、審美的問題に重点を置き過ぎているという印象を強めつつある。 この問題を“Copy and Paste‐Computer Aided‐Design(CAD/CAM)”製作法(QDT編集部注:一般的にはCADはComputer Aided Design、CAMはComputer Aided Engineering)で解決する試みは、 “一見したところ”ほぼ完璧であるかのように見えるが、筆者の個人的な見解では、現在までのところ“美しい幻想”にすぎないと考えている。CAD/CAMによる製作には、いかに適切なミリングバーと最高級の材料を使用して、現代人の多くがそうであるように、ソフトウェアを全面的に信頼するとしても限界がある。これは今日の精神的・経済的な歯科情報(従来とは異なる製作法)を示すにすぎない。補綴物製作は複雑であり、CAD/CAMによる補綴物製作は、患者ごとの固有の機能を幅広く考えることができない方法であると筆者は考えている。 本稿では、歯牙本来の機能、とくに咬合面形態をより深く理解するための筆者の考え方を示し、読者が検討するためのヒントを提供したい。 M. H. Polzの咬合コンパス2(図1)は、咀嚼器官が可能な運動を二次元的に示す。顎関節の状態、歯の位置、神経筋系による運動の可能性、個々の歯が歯槽骨内で動く可能性、そして上顎骨および下顎骨自体の弾性など、複雑な動きのプロファイルにまとめている。これにより個々の歯の形態的要素4に対応する適正な咬合面形態を患者ごとに製作することが可能となる。この咬合面の設計法の目的は、最終的な咬頭嵌合位において可能な限り安定した3点接触(図2)を達成することにある。そしてまた、下顎の前方運動(P=プロトルージョン)、作業側側方運動(L=ラテロトルージョン)、側方運動時に下顎の平衡側が正中方向へ移動する運動(M=メディオトルージョン)およびイミディエイトサイドシフト(ISS)を、切歯-犬歯誘導が限界運動を限定し、さらに咬合コンパスに適応した三次元的な咬頭の動きに対して、干渉が起きにくくするフリースペースを与える(保障する)ことである(図3)。 咬合コンパスを基本として、咬頭、主溝の位置が必要とするフリースペースを示すが、複雑で多様な咬頭・溝の形態については説明していない。前述の咬合接触状態および咬頭運動の多様な特徴は、結局のところ、進化にともなって形成された他の動物における単純な円錐形咬頭と、その間に位置する溝を示すにすぎない(図4)7。自然界には歯の構造が単純な例が多い(図5)。では進化がなぜ、ヒトの咬合面に複雑だが素晴らしい構造を与えたのか(図6)、また、なぜこれを数百万年も守り続けることができたのだろうか? この“なぜヒト(霊長類)の咬合面形態がこのように複雑であるのか?”という問いに対して筆者は、“摂取する食物にある”という答えに納得できる。歯のもっとも重要な役割は、食物を細かく咬む機能である。ヒトは雑食であり、したがって摂取するさまざまな食物を粉砕し、すり潰すための効率的機能(潰す、破壊する、切断する)が生きていくために必要であるからだ。77QDT Vol.40/2015 September page1321

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