QDT 2016年7月
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下顎総義歯印象のパラダイムシフト(後)1515はじめに1.患者主導の吸着印象のコンセプトと目的 筆者の総義歯臨床における「下顎吸着義歯」5との出会いについて触れてみたい。筆者は大学在籍時から睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea- Hypopnea Syndrome,OSAHS)患者の歯科的対応を研究テーマのひとつとしてきた。当時から、諸外国も含めた報告の多くは有歯顎者を対象としており、局部床義歯もしくは総義歯を必要とするような欠損歯列を有するOSAHS患者への歯科的対応の記述は極端に少なく、多数歯欠損症例は歯科的治療の適応外9とされ、治療から放置されかねない状況であった。そして大学病院さらには開業後に、有歯顎者のみならず無歯顎を含んだ欠損歯列を有するOSAHS患者を多数例経験していく中で、いかにして無歯顎のOSAHS患者に対して歯科的に対応するかに苦慮していた。そのような中、たまたま後輩に誘われて阿部二郎先生(東京都開業、東北大学大学院歯学研究科臨床教授、神奈川歯科大学客員教授)の主宰するJDA(Japan Denture Association、 2016年4月からJPDA:Japan Plate Denture Associationという学会に改組)に参加したところ、非常に魅力的な勉強 前編で述べたように、コンパウンド印象による従来型の義歯の目的は「筋の付着部まで義歯床を伸ばし、それによって十分な耐圧面積を確保することで、咀嚼能率の向上を達成する」ことである。もちろん、スティックコンパウンドを用いた辺縁形成においても辺縁封鎖を意識するものの、とくに下顎の印象採得において全周の辺縁封鎖を行うという考え方はしていない。すなわち、どこからか空気が侵入して辺縁封鎖が会であり、かつここで議論され高められつつあった下顎吸着総義歯の手法はOSAHS治療に用いる口腔内装置(Oral Appliance、 OA)の製作に有用であると確信した。下顎吸着総義歯を装着してのOAの効果は大であり、結果は別に記載している10、11ので参照されたい。以後、OSAHS症例のみならずすべての総義歯症例で吸着義歯の手法を取り入れて印象手法をパラダイムシフトした次第である。前編でも述べたが、決してコンパウンドを用いた従来型の印象法を否定するものではないことを強調しておきたい。そして、従来型の義歯と吸着義歯ではとくに印象のコンセプトとその目的がまったく異なることから、それぞれの考え方をよく理解し、混同しないことが重要である。混同した手法を用いると吸着は得られない。 そこで後編では、従来型の義歯と吸着義歯における印象のコンセプトの違いを明確にし、現在筆者が行っている下顎吸着総義歯臨床を供覧することで、下顎総義歯製作における印象術式のパラダイムシフトについてまとめたい。破れてしまうことはやむを得ないと考えている。 一方、吸着義歯の目的は、「口腔粘膜組織によって義歯床の全周封鎖を達成し、義歯の動きの減少により機能の向上を達成する」ことにある。このように従来型の義歯と吸着義歯ではその目的がまったく異なることを理解すべきであると強調したい。したがって、その印象採得のコンセプトとターゲットも異なる。すなわち、従来型の義歯の印象採得におけるターゲットはQDT Vol.41/2016 July page 0895

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