QDT 2017年3月
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107第3回 患者の機能を見据えた歯科技工を目指して ─咀嚼を回復する歯科技工とは?─科技工士の中にもそう認識している方が少なくはなく、これらの技術を習得することが、自身の歯科技工士としての評価されるための術で、やりがいと潤い、患者のためになると信じているのではないだろうか。事実、歯科技工士が受講できる数ある研修会をみても、ポーセレンの築盛方法や形態修正、ワックスアップの方法、口腔内写真の撮影方法などのように、審美修復に関連する内容のものや補綴装置の製作方法といった技術習得の内容のものが多くみられる。この種の研修会の中には、歯科医師と歯科技工士で共通の認識をもって受講できる研修会もあり、そのおかげで審美修復の分野では歯科医師との情報の伝達内容も確立され、足りない情報や不十分な処置に対して歯科技工士の要望を聞き入れてもらいやすくなってきており、歯科技工士の磨き上げてきた技術を発揮できる場も増えていると感じる。 しかし、これらの研修会の中では、機能的で咀嚼能力の高い臼歯部製作についてはあまり触れられておらず、患者の心情的な達成感が得られる審美に対する筋道はあっても、機能的な、中でも咀嚼の回復に関する筋道は知り得ず、咀嚼の回復というよりも、患者の口腔内に収まった、もしくは収めた補綴装置が、顎口腔系と調和し、どうすれば壊れないか、または壊れず口腔内に止められるかの方法論が先行し、それが重要な位置付けにされているように思える。 無知であった以前の著者も、見た目重視で、色調がよく格好が良い補綴装置を製作することにひたむきになっていた。臼歯部に関しては、咬合接触や滑走面など下顎位の安定や壊れない補綴装置の製作を第一に考え、咀嚼を考えた補綴装置の製作はしていなかった。現に、補綴装置の納品後は、無事にセットされることや壊れないことをだけを願っていたし、リコールで患者の来院時に歯科医院から「破折したんだけど……」という連絡がないことだけを願っていた。また、補綴装置が患者の口腔内で円滑な咀嚼機能の回復ができているかどうかは気にもしておらず、不用意に製作した補綴装置の影響により咀嚼機能が下がってしまうことや咀嚼機能を回復し咀嚼効率が上がることで治療した歯牙の保護にもなることなど思いもしていなかった。要するに、補綴装置の製作時に咀嚼ということを考えることもなく、そもそも、当時は「補綴装置が入れば噛めるでしょ。」くらいの認識であった(図1~3)。 「芸能人は歯が命」などといったフレーズにより、審美歯科という分野がより多くの人の歯に対する意識をab図1a、b 咀嚼ということをあまり考えず色調や形態など見た目を重視して製作していた時期の補綴装置。今となっては、本来の機能の回復ができていたかどうかは、確認のしようがない。図3a、b 図1、2と同様の、小臼歯部症例。図2a、b 図1と同様の例。aabbQDT Vol.42/2017 March page 0495

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