QDT 2017年5月
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29CAD/CAMシステムによるマージンの適合性問題への挑戦29 日本の歯科臨床にCAD/CAM(Computer-Aided Design and Computer-Aided Manufacturing)システムが導入されて20年あまりが経過し、現在の臨床に欠かすことのできない機材のひとつとなっている。 CAD/CAMシステムで扱われる素材も、当初はアルミナからはじまり、ジルコニアへ移行し、チタン合金やCo-Cr合金、2ケイ酸リチウム、陶材、硬質レジン、ワックスへと次々に範囲が拡大されてきた。当初はお世辞にも使いやすいとはいえなかったシステムも、近年では各社とも計測速度や測定精度に加えてCADソフトの大幅な改良が進み、初心者でも比較的容易に扱えるようになり、一部では健康保険技工にも取り入れられたこともあって急速に普及が進んでいる。このようにCAD/CAMシステムは歯科臨床に広く使われるようになってきており、それは新しい素材への対応力や技工作業の省力化、品質の安定化などによるものであろう。 しかしながらCAD/CAMシステムによる支台歯への適合性、ことに補綴物として最も重要な要素のひとつである「マージンの適合性」についてはどうだろう。研究者らの文献にはCAD/CAMによるマージンの適合性はほぼ100%であるとか、従来法と変わりがない、臨床に問題ない範囲といった報告が大多数を占めている1-3が、筆者的にはこのマージンの適合性に、CAD/CAMシステムを導入した直後からずっと大きな不満をもち続けている。それはこれまで長く用いられてきた鋳造法によるマージンの適合性に比べて明らかに劣るからである。そしてCAD/CAMシステムによるコーピングで鋳造法に近い適合を得るには、マイクロスコープ下で極々わずかずつクラウンのショルダー面の当たりを見ながら、長時間にわたる微細な手作業による調整が必要なのが現実だからである。つまりCAD/CAMシステムによるマージンの適合性は、歯科技工士の調整能力にかかっているといっても過言ではなく、読者の皆さんの本音も実はそうに違いないと確信している。 このように研究サイドと技工現場の評価が乖離しており、歯科医師も歯科技工士のこのような適合作業の実態を把握していないため、CAD/CAMシステムによるマージンの適合性にあまり関心が向けられないのが実情である。そしてこの「マージンの適合性」はユーザーが主体的にコントロールすることができず、メーカーから与えられたシステムによる結果を受け入れざるを得ない状況のため、不満ながらも目を瞑り、声も上げられないのが現実ではなかろうか。各CAD/CAMシステムのサプライヤーもこの問題は把握しているものの、解消できない案件のため放置しているものと思われる。 筆者はCAD/CAMシステムを臨床技工に導入して16年目になるが、この間、ユーザーとして思いつくありとあらゆる方法を試し、このマージンの適合性の問題を解決することができないかと検討を続けてきた。今般、それらの資料を振り返っていて、ある実験結果からヒントを得、それを応用することでCAD/CAMシステムによってでも、コーピングのショルダー面をいっさい調整することなく、鋳造法と比べても遜色のないマージンの適合が得られる技法にたどり着くことができた。 筆者らはすでにこの技法を臨床応用しているが、コーピングのマージン調整における省力化と非常に良好なマージンの適合性がコンスタントに得られている。しかも、これはいずれのメーカーのCAD/CAMシステムによってでも同様の結果が得られる技法である。本稿において、この新しい技法の論理的背景と作業の詳細を述べたいと思う。▲序QDT Vol.42/2017 May page 0725

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