QDT 2017年10月号
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31新連載連動企画 部分床義歯を究める ―プロローグ―31 「何のための歯科医療なのか」「何のための咬合治療なのか」と、常々考えている。筆者にとって通底しているのは、良心を中心に据えた「すべては患者のために」ということであるが、ここ数年は「生活のための医療」というキーワードも多く使うようになった。すなわち、歯科医師は“生”命に直接かかわる疾病を治療することはできないが、いわゆる「ピンピンコロリ」、健康寿命をできるだけ延伸させ、“活”き“活”きとした生活を送ってもらうためのサポートは存分に行うことができるということである。生死という意味での「生きる」ではなく、人生を楽しむ「活きる」という意味で、現代の歯科医師は患者とかかわる必要があると思っている。 実は、これを書いている今日は義祖母の33回忌で、さきほど仏前に手を合わせてきたところである。義祖母は生前、「人間、食べるだけ食べたら死ぬ」と言っていたが、これはつまり「十分に食べ、満足したら死ぬ」といった意味合いであり、かつ、いかに胃腸に負担をかけないようにきちんと摂食、咀嚼、嚥下させることができるかも重要であり、人間にとって食べることが生命の源であることを意識させてくれた言葉である。 そこで今回は、筆者がこれから開始する部分床義歯治療についての連載に入る前のプロローグとして、筆者が義歯治療、広くは補綴治療・歯科治療について思うことについて述べていきたい。 「義歯」という言葉をインターネット百科辞典のWikipediaで検索すると、「義歯(ぎし)とは喪失した歯を補う為の人工臓器の総称である」(2017年7月30日閲覧)という定義を見ることができる。これを引き合いに出すと、一部の方々からは「補綴の教科書には『人工臓器』などという言葉は使われていない」「人工臓器とはいったい何だ」という意見をいただくことがある。しかし、こうした治療を受ける一般の人々の目に触れる部分に「人工臓器」という言葉が使われていることは非常に重要だと思っている。このように、一般向けの媒体に人工臓器と書かれているのに、なぜ歯科医師はその材質や製作過程にばかり目を向け、機能の回復、すなわち臓器としてのあり方に目を向けていかないのか。筆者は間違いなく、義歯は人工臓器だと思っている。このWikipedia上では「歯を補うための」とあるが、実際には歯周組織をも含めた回復を考慮して治療にあたることが必要であるということを示唆した一文だと思う。 さて、その人工臓器であるところの「義歯」であるが、その種類にはどのようなものがあるだろうか。材質や形態によってさまざまな分類が考えられ、大まかには「部分床義歯と全部床義歯」とするのが一般的であろう。だが、筆者もそう思いながら、もっと合理的な考え方はできないものかと思ってきた。しかし、結局は単純なことで、固定性義歯と可撤性義歯、義歯の種類はこの2種類しかないということに思い至った。固定性義歯はクラウン・ブリッジや固定性のインプラント補綴など、可撤性義歯は可撤性のインプラント補綴や部分床義歯、全部床義歯である。そして筆者は、欠損形態にかかわらず、「義歯を総じる」ことが「総義歯学」であると考えている。筆者のセミナーなどでは、「なぜ、義歯のセミナーなのにインプラントの話を?」「なぜ、支台歯形成の話を?」をいった質問を受けることがあるが、義歯とは歯を補うためのものであると考えれば はじめに 1そもそも「義歯」とは何だろう?QDT Vol.42/2017 October page 1521

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