ザ・クインテッセンス4月
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119CURRENT TOPICS 「○○先生が筋や咬合の調整をしたら,誰がやっても治らなかった顎関節症(TMD)が治った」という話は,個人が主催する「TMDセミナー」のパンフレットなどではよくみかけるエピソードである.しかし,だからといってこの○○先生の治療法を標準治療だと考えることができるであろうか? 臨床で観察される「治った」という現象には,真の治療効果以外にも,自然消退やプラセボ効果,ホーソン効果(患者が医師の期待に応えようとして早くよくなるように努力すること)などがかかわり,「真の治療効果」が水増しされていることが,最近ではよく知られるようになっている. 本論文は,国際的なTMD研究の第一人者であり,AAOP(米国口腔顔面痛学会)のブレインとして知られるDr. Charles S Greeneらの最新の総説であり,「なぜ(その治療で)治るのか」というきわめて臨床的な疑問に対し,とくに「プラセボ効果」に焦点を当てて,解説したものである. 著者らは,プラセボ効果にかかわる要因として,薬や機器に対する印象から起こる「条件反応」,医師の治そうとする行為や言葉自体がもつ「文脈効果」,また改善を期待することにより脳内で鎮痛物質であるエンドルフィンが放出されること,さらに,中枢の報償系であるドーパミン経路が活性化されることなどをあげ,それぞれについて詳述している.また,プラセボ効果は「気のせい」や「心のもちよう」という漠然としたものではなく,実際に脳内に機能的な変化が起こるために生じる現実の現象であるということを,最先端の研究に基づいて解説している. 一方,TMDの分野では,「スプリントや鍼の治療効果のほとんどは,プラセボ効果によるものである」という報告が相次いでいる.しかしながら,著者らは「プラセボ=効果ゼロ」ではないこと,つまりプラセボにもある程度の「有効性」があることを前向きに認め,これを意図的に用いることによって治療効果をさらに高められるのではないかという大胆な提言をし,プラセボのもつ新しい可能性を検討している. なお,Dr. Charles S Greeneは,本年10月に横浜で行われる第6回日本国際歯科大会2日目(10月9日)午後,Eホールで講演をされる予定である.INTRODUCTIONDr. Charles S Greeneらの『プラセボ効果』論文に寄せて井川雅子静岡市立清水病院口腔外科the Quintessence. Vol.29 No.4/2010̶0873 著者ら近影.右からDrs. Mauro,Goddard,Greene,Macaluso.

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