ザ・クインテッセンス4月
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144 う蝕や歯周病に代表される口腔疾患は,その発病も予防もその人の行動に左右されるところが大きい.とくに,摂食,口腔清掃,受診にかかわる行動は,口腔保健を改善する要因であるとともに,発病につながるリスクとなる.そのため,歯科医療者が生涯にわたって個人の口腔保健を支援していくには,単にその人の口腔内状況を把握し,その病態を理解するだけではなく,その状態を引き起こした“原因の原因(cause of cause)”である行動を診て,その行動の背景にある環境と心理的側面を捉える必要がある.このような“生活モデル”を基盤とした歯科医療の構築には,従来からの“医療モデル”のなかで蓄積された体系とは異なった技術と考え方が歯科医療者に求められる. 一方,高齢化にともない増加する全身疾患や日常生活機能の低下は,口腔疾患の発病のリスクを高め,さらにその口腔保健状態の低下が,全身の健康状態の悪化につながるという“口腔と全身の健康との関連”に関する研究成果が,この10年の間に次々と明らかになってきている1~4(図1).また,メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣に基因する疾病の予防は,医療にとどまらず健康政策のなかでも位置づけられるようになってきた. 口腔清掃指導を中心とした保健指導は,従来から,歯科医療のなかで取り組まれてきている.しかしながら上記の背景を踏まえて,摂食指導,歯科受診指導,あるいは全身からのリスク低減を含めた保健指導が歯科医療のなかで十分に体系化されているわけではない. 本稿では,このような観点から,人間の行動を説明し,その動機づけの根拠となる行動科学とは何か,そして,この行動科学を基盤とした院内のシステムづくりについて,具体的な保健指導の事例をあげながら考えてみたい.総合治療医への緊急提言1.はじめに行動科学を応用した歯科医院システム根拠に基づく保健指導の展開深井穫博埼玉県開業 深井歯科医院・深井保健科学研究所連絡先:〒341‐0003 埼玉県三郷市彦成3‐86Kakuhiro FukaiThe Implementation of Behavioral Sciences in Dental Care:Moving Toward Evidence-based Health Instructionthe Quintessence. Vol.29 No.4/2010̶ 0898

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