ザ・クインテッセンス3月
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77the Quintessence. Vol.30 No.3/2011̶0557企画趣旨 世界では毎年約30万人に口腔がんが発症し,増加傾向にあるといわれている.WHO(世界保健機関)は「がん検診」の必要性を訴え,FDI(国際歯科連盟)は一般歯科医師が患者教育とプライマリケアを行うべきと提唱している.一方,わが国における口腔がんの死亡者数は年間約5,000人で,高齢社会の進行とともに発生頻度も増加傾向にある.このような状況下,口腔がん治療は進歩し,その5年生存率は早期がんでは90%以上と良好になってきているが,進行がんでは約50%と低く,また治癒しても大きな口腔機能障害を残しているのが現状である.したがって,口腔がんにおいても早期発見と早期治療がきわめて重要となっている.残念ながら早期口腔がんでは,特有な自覚症状と特徴的な所見を欠くため,医療機関への受診が遅れ,また「がん」そのものの診断が遅れることが多い.医療機関で加療中であったにもかかわらず,指摘されず見過ごされた症例も多く経験する. 先進国で,口腔がんによる死亡率(対40歳以上の人口10万人)が増加しているのはわが国だけだという.他の国では,歯科医師会と基幹施設が中心となって口腔がんの予防に努め,国民への疾病啓発と検診の普及を行った結果,死亡者数を減少させることに成功している.わが国でも,口腔がんが今後さらに性差なく増加し若年化している傾向を鑑み,歯科医師による患者教育と早期発見へ向けた診断能力の向上が喫緊の課題となり,「口腔がん検診」の機運が高まってきている. 現在,このような現状に対して,各地の有志歯科医師による歯科医師会を中心とした口腔がん検診が開始され,その実績が報告されつつある.実際には,歯科衛生活動の一環としてイベント的な集団検診,有志歯科医師による自院での個別検診,また行政の全面サポート下での保健所での実施など,さまざまな方式を用いて全国で展開されている.筆者も地元歯科医師会との連携を基盤として,政令指定都市のバックアップも得ながら19年間にわたって市民に口腔がん検診を提供し,啓発活動にも努めてきている. 本特集では,2010年の(社)日本口腔外科学会シンポジウムで大きな感銘を与えた,また先駆的な検診活動を継続している先生方にスポットを当て,行政,歯科医師会,基幹病院,そして学会のそれぞれの立場から,今後のわが国の口腔がん検診を見据えた取組みについての解説と,一般臨床家が口腔がん検診を導入するためのアドバイスをお願いした.コーディネーター・柴原孝彦(東京歯科大学口腔外科学講座)特集1人でも多くの患者を救うために歯科医師がすべきこと口腔がん検診キーワード:口腔がん,地域歯科保健,歯科医師会,対策型検診,任意型検診,細胞診行政の立場から地域歯科保健における口腔がん検診の現状千葉光行(上田歯科医院/前・市川市市長)歯科医師会の立場から歯科医師会主導の口腔がん個別検診システム浅野紀元(東京都歯科医師会会長)基幹病院・研究者の立場から科学的根拠に基づいた口腔がんの診断の精度・感度長尾 徹(岡崎市民病院歯科口腔外科)大学・学会の立場から大学病院とかかりつけ歯科医院との連携による細胞診を応用した口腔がん検診システム石橋浩晃/関根浄治(島根大学医学部歯科口腔外科学講座)まとめ歯科医療の最前線にいる一般歯科医師にこそ口腔がん検診に目を向けてほしい柴原孝彦(東京歯科大学口腔外科学講座)の現状と展望

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