ザ・クインテッセンス1月
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“歯科医のための”内科疾患ファイル肝疾患とは 肝臓は「沈黙の臓器」と言われ,肝硬変や肝がんのような肝炎の終末像を呈する状態に至っても,自他覚症状がまったくない症例も稀ではない.そのため,患者に基礎疾患として肝疾患がある場合には注意が必要である. 肝疾患を原因別に分類すると,ウイルス性肝炎,アルコール性肝障害,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH),薬剤性肝障害,自己免疫性肝炎などが挙げられる(図1).とくに肝硬変患者では,出血傾向や創傷治癒遅延などがみられることから,日常診療において注意が必要である.その原因としては,B型およびC型肝炎ウイルス感染によるものが全体の約₈割を占めており,飲酒によるものは約1割である(図2). 主に肝炎ウイルスの感染が原因となり急性の肝機能障害を起すものを急性肝炎といい,臨床的に6か月以上にわたり肝機能検査値の異常が持続している病態を慢性肝炎という.急性肝炎の患者では,全身倦怠感,易疲労感,食欲低下,悪心,嘔吐,黄疸,褐色尿などの自覚症状を呈する.一方,慢性肝炎の患者では自覚症状に乏しく,肝硬変症に至っても病状が進行するまでは自覚的に異常を感じることは少ない.進行した肝硬変症や肝がんを合併した患者においては,急性肝炎と同様の症状に加えて,腹水による腹部膨満感や下腿浮腫などを訴える場合もある.歯科治療の際の肝疾患患者への問診と診察のポイント 先に述べたとおり,肝臓は「沈黙の臓器」であることから,歯科治療を行う際には,患者が肝疾患に罹患していることを積極的に疑い,患者から得られる病歴,身体所見および血液検査所見などから総合的に肝疾患の有無やその状態について判断する習慣をつけることが望ましい. 肝炎ウイルスの感染を疑う患者に対しては,自覚症状以外に既往歴,家族歴の聴取が重要である.既往歴としては,手術歴および手術時の輸血や血液製剤使用の有無を,家族歴図1 肝疾患の分類図2 肝硬変の成因別実態(第2回日本肝臓学会大会の集計:1998年)肝疾患の原因肝炎ウイルスA型肝炎B型肝炎C型肝炎D型肝炎E型肝炎アルコール性肝障害非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)生活習慣自己免疫性肝炎薬剤性肝障害HCV65%HBV12%HCV+HBV1%アルコール13%その他9%【監著】西田次郎(東京歯科大学内科学講座)片倉 朗 (東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座)連絡先:〒272‐8513 千葉県市川市菅野5‐11‐13File1肝疾患124the Quintessence. Vol.32 No.1/2013—0124

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