ザ・クインテッセンス2月
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開業歯科医の起源はハムラビ法典の記載が最古とも言われており4000年前(メソポタミア文明)となるが,少なくとも太古の昔から私たちの先輩たちが歯科医療に貢献してきたのはまぎれもない事実である.また,2000年前のローマ時代遺跡から発掘された人骨に鍛鉄性のインプラントが埋入されていたことが科学論文雑誌Natureに掲載されているが,Brånemark博士の研究を待たずとも,う蝕,歯周疾患や外傷によって失われた歯を復元する努力は古くからチャレンジされていたこともまた事実である. しかし,その一方で私たち歯科医師はここ数十年で新たな疾患を生み出してもいる.人類の歴史から言うと500万年間,これまでこの世に存在しなかった疾患,生体にチタンという人工物を移植することがきっかけでできた疾患,それがインプラント周囲炎である.医師が何らかの理由で患者を害する可能性(医原性疾患)は古代ギリシャ時代より知られていたことである.滅菌・消毒の概念なく行われた処置の結果,多くの死亡例を出していたのはわずか200年前の西洋での出来事であった.医原性疾患にはその発生と同時に判明するものもあれば,長い年月を経た後に新しい知見が発見され,ようやくこれまでの医療行為が何らかの医原性疾患を引き起こす原因になっていたことが判明することも稀なことではない. そこで本題であるインプラント治療について考えてみると,半世紀にもおよぶ基礎的・臨床的研究を礎として近年飛躍的な発展を遂げてきた.臨床プロトコルの公表からでも30年以上が経過した現在,インプラント治療そのものへの有効性と科学性を実証するエビデンスは枚挙のいとまがなく,これまで多くの患者が義歯からの解放,咀嚼機能の向上,天然歯の温存,審美性の回復など多くの恩恵にあずかってきたのも事実である.しかし,インプラント治療が広く一般に普及し,その長期症例の報告がめずらしいものではなくなってきた現在,インプラント周囲組織の感染性疾患であるインプラント周囲炎について警鐘を鳴らされていることもまた事実である.たとえそれが医原性疾患であろうとなかろうとである. 本稿では,インプラント周囲炎の治療法を論ずるのではなく,これまで筆者自身が歯周病専門医としてインプラント治療とその基礎研究に携わってきたことを振り返りつつ,現代の治療におけるインプラント周囲組織の安定について述べてみたいと考える.はじめに

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