ザ・クインテッセンス2月
6/8

107はじめに 生物を“遺伝子の乗り物”と考える利己的遺伝子説と,その遺伝子には進化とともに“ある想定”が仕組まれていると考える進化医学は親和性が高い.今回は,前回のヒトの進化を踏まえて,利己的遺伝子の想定する進化医学的視点で,一般論と歯周病因論を見ていきたい.森林やサバンナでの食の心得 カロリー摂取が限られていたわれわれの祖先たちは,食べられるものは何でも,食べられるときにはいつでも食べていたはずだ.われわれのように1日3食用意されているのと違って,次いつどれくらい食べられるかわからなかったわけで,そうなると余分に食べたものはできしていないことだ!(なんじゃそりゃ?).βアドレナリン受容体遺伝子やPPARγ2遺伝子などはよく解説で取り扱われる遺伝子であるが,完全にコンセンサスが得られているわけではない(図2).興味のある方はぜひ検索して調べてほしい.これ食べて大丈夫? オーバーカロリーと遺伝子の話はさておき,食べ物の“選択”の話に移ろう.この場合の選択とは,森林やサバンナで見つけたものが,食べて大丈夫なものなのか,食べてはいけないものなのかという選択のことである.利己的遺伝子の観点から眺めてみる. たとえば,植物やキノコ類を食べることを考えよう.まずは食べられる立場になったらどうだろう? 植物のあるものるだけ体の中にため込むのが得策である.“そのような遺伝子”をもつ人間ほど生き延びる可能性が上がるのだから,結果として“そのような遺伝子”をもつ人間が主流派となっていくはずである.われわれ現代人がその主流派で占められているとすれば,余分なカロリーを取れば取るほど体にため込んでしまうわけで,これが肥満や糖尿病のバックグラウンドになる(図1). “そのような遺伝子”をJames V. Neelは倹約遺伝子(thrifty gene)と名付けた1.1962年のことである.大変魅力的な学説で,初めて知った時には大きくうなずいたものだ.進化医学でもよく取り扱われる考え方なのだが,生きながらえるために遺伝子がそういう仕掛けをしているという意味で,利己的遺伝子説にも通じる.唯一の欠点はその肝心の遺伝子が確定図1 ダーウィンの自然選択説を採用すれば,飢餓状態ではエネルギーをため込む遺伝子をもつ個体が有利になり,やがて多数派となる.その個体が短期間の間に飽食環境にさらされると肥満という形が表出してくる.図2 倹約遺伝子の候補.連載を始めるにあたって 長年,歯周病の病因論を論じるときには細菌の因子と環境の因子,そして宿主遺伝子の因子は別々に論じられてきた.しかしながら21世紀に入って環境と宿主遺伝子は深い関係にあり,場合によっては細菌も宿主遺伝子に影響を及ぼすということがわかってきた.この大きな波はきっとわれわれ歯科の領域(とくに歯周病)に押し寄せ,病因論の捉え方を根本的に変えてしまうエネルギーをもっている予感がする.まだまだ歯科のデータも少なく確信的な話で固めることができない状態ではあるが,これから起こるであろうバイオロジー変革の予兆を肌で感じていただきたい.環境と遺伝子倹約遺伝子の候補βアドレナリン受容体遺伝子PPARγ遺伝子レプチン遺伝子レプチン受容体遺伝子 etc.ヒト集団ヒト集団飢餓飽食肥満浪費遺伝子をもつ人倹約遺伝子をもつ人ENVIRONMENTAL GENETICSペリオのための環境遺伝学2連載我々に刻まれた過去の記憶(進化医学と利己的遺伝子説)山本浩正キーワード:倹約遺伝子,利己的遺伝子,歯周病菌大阪府開業 山本歯科連絡先:〒561‐0861 大阪府豊中市東泉丘4‐2‐10‐102the Quintessence. Vol.32 No.2/2013—0329

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です