ザ・クインテッセンス10月
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“歯科医のための”内科疾患ファイル 神経内科で取り扱う神経・筋疾患は数多く存在し,すべての疾患を本章で紹介することは難しく,今回はパーキンソニズムを中心にその病態と歯科治療時の留意点を解説する. パーキンソニズムは神経疾患の中では脳血管障害を除けば歯科医師にとってももっとも接触する機会の多い疾患群である.とくにパーキンソン病は神経変性疾患の中で治療によりADLの維持,向上を積極的に目ざせる数少ない疾患の1つである.平均寿命もパーキンソン病に罹患していない群と比較して遜色なく,それだけ歯科治療のニーズも高いと思われる.パーキンソニズムとは 振戦,筋固縮,寡動,姿勢反射障害を総称してパーキンソニズムと呼ぶ.パーキンソニズムをきたす疾患には大きく分けてパーキンソン病とそれ以外の原因で生じるパーキンソン症候群がある(表1). 振戦は不随意運動の1つで,筋肉の収縮と弛緩が交互にリズミカルに繰り返される“ふるえ”のことを指す.筋固縮とはたとえば四肢の屈筋と伸筋の両方の筋肉のトーヌスが亢進した状態を指し,患者の上肢を他動的に伸ばす際にカクカクと感じたり(歯車様),一様に強く感じたり(鉛管様)する.寡動は動作が全体にゆっくりとした状態のことで,それが高度であれば無動とも呼ぶ.また,健常人ではバランスを失って倒れそうになったときに反射的に踏みとどまって姿勢を立て直そうとするが,この反射が弱まることを姿勢反射障害と呼ぶ.パーキンソン病とは 通常,孤発性で本邦では10万人当たり約120人に認められる.発症は20~80歳台で起こりうるが,50~60歳台前半での発症が多い.診断にはパーキンソニズムを生じる他の疾患の除外が必要である.他の疾患では抗パーキンソン薬の効果は極めて限定的である.鑑別診断のうえで非常に重要なポイントである. 病理学的には脳幹の黒質,青斑核に変性を認める.黒質から神経線維が投射されている線条体でのドーパミンが減少することにより症状が起こると考えられている.パーキンソン病の症状 症状は左右どちらかの片側で始まり,次第に両側性に広がる.振戦は安静時に認められることが特徴的である.また,固縮は歯車様であることが多い.固縮は姿勢にも影響し,前傾姿勢となり,非対称的な肩下がり,側弯に影響する.寡動により全体的な動作が遅くなる.顔の表情が乏しくなり(仮面様顔貌),歩行は小刻みとなる.歩き始めの第一歩を出しにくくなり,いわゆる“すくみ足”となる.発声は単調で小声となり,書字が徐々に小さくなる小字症を呈する.また,一連の動作に円滑さが失われてぎこちなくなる協調運動障害も認められる.以上の運動症状に加えて自律神経障害や精神症状などの非運動症状もともなう. 自律神経症状としては便秘,垂涎などの消化器症状,起立性低血圧,食後性低血圧,発汗過多,あぶら顔,排尿障害,勃起不全などがある.精神症状としてはうつ状態が多く認められる.他に感情鈍麻も多い.薬剤の副作用のためだけでなく幻視も頻度が高いとされる.以前は特殊な例を除きパーキンソン病に認知機能障害はないとされていたが,実際は多く合併し,パーキンソン病患者の30~40%に認知機能障害が認められる. また,病的賭博,性欲亢進,強迫的買い物,強迫的過食,反復常同行動,薬剤の強迫的使用などのいわゆる衝動制御障害の合併を認めることが知られている.File10神経・筋疾患岡田 聡( 東京歯科大学内科学講座)有坂岳大( 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座)【監修】西田次郎(東京歯科大学内科学講座)片倉 朗( 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座)連絡先:〒272‐8513 千葉県市川市菅野5‐11‐13142the Quintessence. Vol.32 No.10/2013—2192

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