ザ・クインテッセンス9月
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リスク管理に不可欠な血液対策血液を介する感染症Blood-Borne Infectious Diseases小高千加子キーワード:血液媒介病原体,感染症,輸血,針刺し損傷Chikako Odaka国立感染症研究所 血液・安全性研究部連絡先:〒208‐0011 東京都武蔵村山市学園4‐7‐1e-mail:odaka@nih.go.jp20Over成人患者に役立つ必修トピック1.はじめに 血液は無菌的に見えても,さまざまな病原体を含んでいる可能性があり,健康な人の血液だからといって安心できない.また,患者の体液には血液同様,感染症の病原体を含んでいることがある.医療従事者は,職業上起こり得る感染の危険性から自己防御だけでなく,患者への感染を防止するための安全対策を講じなければならない. 本稿では,血液を介する感染症とその対応について概説する.2.血液媒介病原体 血液・体液を介して伝染する病原体には,肝炎ウイルス,エイズウイルス(HIV)や成人T 細胞性白血病ウイルス(HTLV-1),また多くのヒトが不顕性感染を起こすEB ウイルスやサイトメガロウイルスなどの日常環境に生息するウイルス,梅毒スピロヘータ,ウエストナイルウイルス,マラリア原虫やシャーガス病を引き起こすトリパノソーマ原虫などの国外の特定の地域に生息する感染症病原体があげられる(表1). 1990年後半にヨーロッパでパニックを起こしたウシ海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy, BSE)類似の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(variant Creutzfeldt-Jakob Disease, vCJD)は,その起因病原物質である異常プリオン蛋白が血液を介して感染する. また,エボラ出血熱などの熱帯性出血熱ウイルス,ボルナ病ウイルスあるいはダニによって媒介されるライム病起因スピロヘータ(ボレリア属)なども,血液暴露により感染する可能性があるといわれている. これらは,総称して「血液媒介病原体」(Blood-borne Pathogens)と呼ばれる1.1)肝炎ウイルス①A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus, HAV) HAVによるA型肝炎は,通常不衛生な環境下での水や食物の摂取による経口感染である.飲食店での集団感染や海外渡航者の感染が見られ,慢性肝炎に移行することはほとんどない.血液を介する感染は稀であるが,感染の潜伏期から急性期にかけてウイルス血症を起こした場合,血液からの感染が起こり得る.140the Quintessence. Vol.33 No.9/2014—1984

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