ザ・クインテッセンス 2016年9月
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子ども虐待の根絶を目指して歯科界の新たな役割FEATURE特 集 2花岡洋一How to Eradicate a Child Abuse from Dentistry?Yoichi Hanaokaキーワード:虐待,早期発見,通告義務奥羽大学歯学部生体構造学講座法歯学連絡先:〒963‐8611 福島県郡山市富田町字三角堂31‐1はじめに 1986年~1987年にかけて,本誌の兄弟誌であるQDT(当時)に「身元不明死体に残された補綴物」と題し,補綴物から身元を特定する連載をさせていただいていた.これは累積する身元不明死体を少しでもご遺族にお返ししようというクインテッセンス社の試みに賛同してのことであり,筆者にとっても意味深い試みであったのを覚えている.今回,本稿を書くにあたり,当時も今のように「虐待」という言葉が存在したであろうかという疑問をもった.無論「虐待」という言葉そのものは存在していたに違いない.しかし現在のように,新聞やテレビ等のメディアに,頻繁に「虐待」という文字が躍るようになったのはここ10年ほどのことではないだろうか. しかし,種々の虐待は社会問題として新たに生じてきたものではなく,いずれも被害者が弱者であることに起因し,その発覚が遅延していたにすぎないとも言われている.そして弱者に焦点があてられるようになった今日,それが大きな社会問題として取り上げられ,さまざまな領域で種々の取組みが行われつつある.歯科界も決して例外ではなく,むしろ歯科界が社会から求められている喫緊の新たな役割こそが虐待の根絶ではないだろうか. 本稿では虐待のなかでも,とくに子ども虐待に焦点をあて,歯科界として何ができ,何をしなければならないのかを筆者なりに述べたいと思う.1.子ども虐待事例の日常性 2011年3月11日にわが国を襲った未曾有の大震災から,はや5年の月日が流れた.筆者は法歯学者としてご遺体の身元確認の支援にあたり,結果的にではあるが,とくに被害の甚大であった,宮城,岩手,福島の3県すべてに支援に入った唯一の歯科医師となり,きわめて貴重な経験をさせていただいた.その内容は他誌をご参照いただくとして,驚くべきは,未曾有の大震災の最中にも究極の子ども虐待ともいうべき事件が起きていたことである(図1).これこ66the Quintessence. Vol.35 No.9/2016—2026

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