ザ・クインテッセンス 2016年10月
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はじめに 「人びとが欲しいのは1/4インチのドリルではなく,1/4インチの穴なのだ」とは,ハーバード大学T・レビット教授による著書『マーケティング発想法』に紹介されている一文だ.この考えを歯周形成外科に当てはめると,患者が望んでいるのは侵襲の少ない治療であり,手術用顕微鏡(マイクロスコープ)の使用は治療のゴールそのものにはならない.裸眼であれ,拡大鏡(ルーペ)の使用であれ,Minimally Invasive Surgery(以下,MIS)を達成することができたのであれば,その術式は大いに評価されて然るべきである. しかし,私見を容赦いただけるのであれば,裸眼,拡大鏡の視野でのMISの実践には無理が生じる.術者が口腔に限りなく顔を近づけ,両目を術野に近接することを許されているのであれば別であるが,感染防御の面からも推奨されないであろうし,この診療姿勢は術者のフィジカルコンディションを蝕み,患者にとっても快適な術者との距離感であるとは言い難い.もし自身が患者であれば,治療行為であるとはいえ筆者のような術者(中年男性)に必要以上に顔を近づけられることは決して心地のよいことではなく,やはり術者にはマイクロスコープ等の拡大視野の下,適切なパーソナルスペースを確保したうえでの治療を求めたいと思う. もとより精密診療への「こだわり」である.事実,ルーペにて根管治療時に根尖部を明視野にて確認するのは至難の業であり,歯肉溝内における補綴装置の適合やセメント残留を確認するためにはルーペでは役不足である.主題とするMISについても同様で,tunnel apやenvelope ap形成時の穿孔を防ぐにはマイクロスコープの使用がもっとも効果的で,フラップの断端を隙間なく縫合し,術後の瘢痕形成の阻止にこだわるのであればマイクロスコープを用いることに躊躇する理由はない(図1).歯科臨床ではエラーを0にすることは現実的に不可能であるのだから,これを減少させるマイクロスコープは歯科臨床の「must have item」であり,患者への真摯な態度と言い換えることもできる. さらには術者にとってのマイクロスコープとは,純粋に「fun」である.楽しい,そして習得の達成感佐藤琢也Minimally Invasive Surgery : New Approaches to Implant and Periodontal Plastic SurgeryTakuya Satohキーワード:Minimally Invasive Surgery(MIS),マイクロスコープ,歯周形成外科 大阪府開業 デンタルインプラントセンター大阪連絡先:〒538‐0044 大阪府大阪市鶴見区放出東3‐6‐9マイクロスコープで変わる歯周形成外科へのアプローチ第1回 MISのセオリー:手術用顕微鏡・拡大鏡の応用集中連載Minimally Invasive Surgery(MIS)Movieスマホで動画が見られる!(使い方:P7参照)P167,168 170162the Quintessence. Vol.35 No.10/2016—2348

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