ザ・クインテッセンス 2016年12月
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はじめに 2020年東京オリンピックを無煙環境で開催できるのか,日本のタバコ対策が世界から注目されるなか,厚生労働省は今年8月,「たばこ白書」(喫煙の健康影響に関する検討会報告書)を15年ぶりに改定した.国内外の研究論文を系統的にレビューし,喫煙の健康影響を科学的証拠に基づいて評価した結果,いくつかの疾患で受動喫煙(他人の喫煙)がそのリスクを高めることが明確に示された.肺がんは,日本人で受動喫煙によりそのリスクが約1.3倍に高まるという.肺がんだけでなく心筋梗塞や脳卒中,さらに子どもへの影響では,小児喘息既往や乳幼児突然死症候群も受動喫煙との因果関係が確実であるとされた.いまから35年前,日本の平山雄博士が,受動喫煙と肺がんとの関係をBritish Medical Journalに世界に先駆けて発表して以来,受動喫煙の健康影響については否定的な意見を含む多くの議論があった.今回,受動喫煙の危険性が,日本人を対象とした研究に基づいて科学的に裏付けられた意義は大きい.これを機に,受動喫煙の健康影響についての国民の理解をさらに広め,遅れている日本の受動喫煙対策を国際水準に引き上げなければならない. 20世紀後半,喫煙と歯科疾患との関連性を示す科学的根拠の蓄積が進み,能動喫煙(本人の喫煙)と歯周病・口腔がんについてはその因果関係が確立している.21世紀に入り,受動喫煙も口腔に影響を及ぼすことを示唆する研究結果が,国内外で報告されるようになった.なかでも,受動喫煙と子どものう蝕との関連は,すでに小児関連の学術雑誌において受動喫煙の影響として含まれるようになり,歯科以外の保健医療分野からの関心は高い.しかし,う蝕を扱う歯科領域では,う蝕とタバコがどうも結びつかないと感じる読者も多いのではないだろうか.本稿では,「関連メカニズムは生物学的に説明できるのか?」「別の要因が絡む見かけ上の関連ではないのか?」といった疑問に答えるべく,最近のエビデンスに基づいて,受動喫煙と子どものう蝕の因果関係について解説する.小島美樹Does Secondhand Smoke Increase the Risk of Pediatric Dental Caries?Miki Ojimaキーワード:タバコ,小児う蝕,疫学梅花女子大学看護保健学部口腔保健学科連絡先:〒567‐8578 大阪府茨木市宿久庄2丁目19‐5受動喫煙は子どものう蝕の原因となるか?エビデンスに基づく因果関係の推定168the Quintessence. Vol.35 No.12/2016—2846

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