ザ・クインテッセンス 2017年2月
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1.‌「疾患の治療」から「リスクの管理」へ:歯科界に求められるパラダイム・シフト 前回のCAMBRATM特集(2016年5月号掲載)では読者諸氏から多くの反響をいただき,新しい予防臨床に対する期待がわが国においても高まっていることを実感することができた.この場を借りて感謝を申し上げるとともに,こうして再び筆を執る機会をいただけたことを嬉しく思う. まず,前回ご紹介したCAMBRAについてもう一度要点をまとめ,また十分に説明し切れなかったリスク評価の本質についても触れておきたい.リスクとは,簡潔に言うと「良くないことが起こる確率」である.1つの例として「火事」を挙げてみる.もし,木材などが置かれている納屋にコンロやストーブなどを一緒に保管したら,火事になる危険性はそれらがない場合に比して高くなるだろう(図1).何らかの直接的要因によって,危険性が相対的に高くなっているが,まだ実際には起きていない状態──これが「リスクが高い」状態である.そして,実際に「良くないこと」が起こってしまった後では,リスクという言葉は用いない.納屋が現に火事になっているのに「火事のリスクが高い」とは言わないだろう(図2).ただし,納屋に隣接していてまだ延焼していない母屋については,「直近の火事のリスクがきわめて高い」ということができる. ここで,納屋を「う蝕罹患歯」,母屋を「隣接する健全歯」に置き換えてみよう.口腔内はいわば1つの環境であるのだから,多少の部位特異性はあるにしても,現に1か所以上のう蝕があるなら他の部位の歯質にも脱灰傾向が当然あるものと考えられる.あたかも燃える納屋から周囲に火の粉が舞うかのごとく,である.実際,前回ご紹介したDoméjeanらの報告1でも,初診時のう蝕の既往がその後の新しいう蝕発生と強い相関を有していることが示されている.CAMBRAにおいて「疾患指標(現在あるう蝕や最近のう蝕治療歴)に1つでも該当があればハイリスク」としているのはこのためである. このように考えていくと,予防行動とは「納屋が火事にならないように火の元になりそうな要因を取り除く」こと,治療とは「火事になってしまってから麻生幸男*1/井澤宏之*1,*2/竹下 玲*3/安井利一*3Clinical Protocols for CAMBRA in JAPANYukio Aso, Hiroyuki Izawa, Rei Takeshita, Toshikazu Yasuiキーワード:CAMBRA,疾患指標,リスク因子,防御因子*1医療法人社団ワンアンドオンリー 麻生歯科クリニック*2医療法人社団大栄会 静岡デンタルクリニック*3明海大学歯学部社会健康科学講座口腔衛生学分野*1連絡先:〒420‐0823 静岡県静岡市葵区春日2‐12‐5 A.S.Oビル日本版CAMBRA活用術日米3,700件のデータから検証!Data特別寄稿102the Quintessence. Vol.36 No.2/2017—0316

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