ザ・クインテッセンス 2017年3月
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はじめに:なぜ,小児の母親に対する取り組みを行うことになったか 「歯科医療のあるべき姿とは何か」という根源的な問いに筆者が向かい合ったのは,2006年に熊谷崇先生が主催されるオーラルフィジシャン育成セミナーに参加したときのことである.セミナーのなかで熊谷先生は,「日本では,年齢とともに多くの歯が失われているが,生涯自分の歯で過ごせる歯科医療を提供することこそが歯科医療の本質である」と述べられた.このことが,「どれだけ積極的に地域の人びとの歯を守ってきたのか」と自問する機会となった.そして,高度な「治療」を提供することが,最良の歯科医療だと考えていた自分の臨床を根本から見直すきっかけとなり,「生涯自分の歯で健康に過ごすこと」を目標に掲げ,予防に軸足を置いた診療室として自院を再スタートさせた.この目標を具現化するため,医院も移転し,熊谷先生が院長を務められている日吉歯科診療所で行っているメディカルトリートメントモデル(以下,MTM)により個々の患者の有するリスクをマネージメントする診療システムを導入した(MTMについては本誌2014年1月号を参照いただきたい).また,歯科衛生士は患者担当制とし,個室環境で専用のチェアをもち,すべての患者にMTMで診療を行った後にメインテナンスに移行することとした. しかし,いざスタートしたものの,中高年を中心にすでに生涯自分の歯で過ごすことが困難な患者が少なくなかった.このような患者を診るにつけ,早期からの予防の必要性を痛感した.そこで,低年齢からの予防を推進するため,小児患者には専任の歯科衛生士を配置した.さらに,小児と成人が混在するなかでの診療環境に問題を感じ,2010年には小児棟を増築し,小児に特化した診療環境を整備した.当初は予防のために受診する小児はほとんどいなかったが,子育て支援サークルや保育所などで啓蒙活動を行うなかで徐々に患者数は増加し,1名であった小児担当の歯科衛生士は,現在3名に増加している. そのようななか,自院のデータを分析すると,すでに母親と一緒にメインテナンスしている小児は,柴田貞彦Sadahiko Shibataキーワード:親子,メインテナンス秋田県開業 柴田歯科医院連絡先:〒012‐1100 秋田県雄勝郡羽後町字川原田31Data親子予防のススメ親の気づきがすべてのはじまり132the Quintessence. Vol.36 No.3/2017—0572

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